「ここも寄ってみましょうか。」
「あ、ああ・・・・・・。」
言われるままに俺は武器屋の扉をくぐった。

ここはセータの町。
俺はミッシェルという魔法使いと共に、ドークスへ向かう途中だ。
この連れはかなり頼もしく、ヴァルクドからセータに着くまでの間、俺は一度も回復の護符を使わなかった。
行動力も魔力も、到底太刀打ちできない。
こんな人が世の中にいるのかと感心するばかりだ。
そんなわけで、町に着いても、いつものように護符を買い求める必要はなく、俺の懐は普段に比べて潤っていた。

武器屋には、駆け出しの冒険者には手の出ない高価な武器も並んでいる。
ミッシェルは珍しそうに店の中を眺めていた。
彼の話によれば、ミッシェルの故郷はガガーブの向こう側だそうだ。
多くの冒険者が挑んだガガーブを身体1つで越えて来たと言うのだが、行く先々で興味深そうに店を眺め回すのを見ていると、本当に異国の人なのだろうと感じる。
そんな人と俺が行動を共にしているなんて、何とも不思議なことだ。

武器屋の壁に飾られた武器や防具を見やると、ふと目に飛び込んできたものがある。
『スピンソーサー……』
店で売っているブーメランのうち一番高価な品だ。
いつも気になって、でもとても手が出なくて、二人で苦笑いしてあきらめていた。
俺の相棒、大切な親友。
今は側にいないけれど……。
俺は懐の財布を握り締めた。
まだまだ、これを手にするには足りなかった。
「なにか良い物がありますか?」
ミッシェルが声を掛けてきた。
「いや、あいつが帰ってくる頃には買えるかなと思ってさ。」
俺は答えた。
「これはまた。結構な出来栄えですが、値段もそれなりの代物ですね。」
ミッシェルがしげしげとスピンソーサーを見て言った。
「これと名剣ブリューナクを買い揃えようって、いつもマイルと話してたんだ。」
マイルの名前を口にした途端、俺は喉元にこみ上げてきた思いに言葉を失った。
胸が締め付けられる。
変えようのない現実が俺に迫ってくる。
「出ましょうか。」
俺の変化を見て取ったのか、ミッシェルは俺の腕をつかんで外へ連れ出した。

「悪かったな。ミッシェルさん、買い物があったんだろう。」
しばらくして落ち着いた俺が尋ねると、ミッシェルは首を横に振った。
「メイスも悪くないのですが、私はこちらの方が扱いやすいですから。」
そう言って、片手に持った杖をかざして見せた。
「1人で店に入っても長居出来ないものですからね。連れがあるからとついつい……。辛いことを思い出させてしまって、すみませんでした。」
頭を下げるミッシェルに、俺は気にしないでくれと言った。
「シャノンも一緒に消えたんだ。マイルの事、あんなに想ってくれてたんだ。彼女がきっとマイルを守っているさ。俺は、そう信じてる。」
言葉にする度に、否定しそうになるけれど。
でも俺はマイルを、マイルとシャノンを信じるんだ。

「信じ続けてください、アヴィンさん。」
ミッシェルが俺を勇気付けるように言った。
「ああ。」
俺は自分自身に言い聞かせるように答えた。
信じたい。マイルの無事を信じたい。
いつか本当に帰ってきてくれると信じたい。
俺は大きく息を吸った。
「その時までにお祝いの品を買う金を貯めなくちゃな。」
俺が言うと、心配そうにしていたミッシェルの顔に笑みが浮かんだ。
「その意気ですよ。」
安堵した様子のミッシェルに、俺はひとつ頷いて言った。
「そろそろ出発しよう、ミッシェルさん。」
「ええ、行きましょう。」

向かう先はドークス、その先の真実の島。
そこに何があるか俺は知らない。
今はただ前に進むだけだ。

2003.11.2


久しぶりの創作です。
勢いで書いたもので、いいタイトルが浮かびません。
「セータの街角」「友を想う」……なんかな~。「ブーメラン」は書いてるときの仮タイトルをそのままです。

回復の護符(旧版)=回復の秘薬(新版)です。
それを言ったら、このネタの設定そのものが旧版ですが…。
元々のミッシェルさんのポジジョンって、このあたりじゃないかな~と思います。

しかしあれですね、一人称って難しいけど病み付きになりそうですね。
アヴィンって、心で思っていることと、口に出すことの間にギャップがある分(旧版だけかしら…)、内面の描写に力を入れられて面白いです。