Fanfiction 二次創作|Junkkits

冒険者のバカンス

-1-

ガガーブ歴956年、ティラスイール。

オルドスの町は、一年で一番暑い時期を迎えていた。
町の入り口の大門からまっすぐ伸びた大通りには、法衣姿の神官や、質素ななりをした修行生が行き来していた。
さらに彼らに混じって、道具箱や材木を抱えた職人たちが、汗を垂らしながら行き交っていた。

ぐるりと街の外壁に沿って見渡せば、風車の並ぶ神官街区に、ひときわ目を引く大きな建物が建築中であった。
それはまだ基礎の段階であったけれども、周囲の足場は二階、三階の高さまで組み上げられていたのである。
その広さといったら、風車を縦横に三つづつ並べてもまだ余るほどの広さだった。
完成すれば町の中核をなす建物になることは明らかであった。
元より広いとは言い難いオルドスである。
建築現場の槌音は町じゅうに響き、人々に活気を与える源となっていた。

このオルドスに町を開いたのは一人の魔道師であった。
そもそも小さな古い祠が奉られていたオルドスは、古く魔女の巡礼のシャリネとして知られた場所であった。
ティラスイールのここ二百年の歴史は、魔女や魔法使いを排斥し、それに伴って魔女の巡礼に習った一般人の諸国巡礼も極わずかを残すのみになっていた。
その流れを遮るように、魔法を役に立つ力として広めようとしたのが、オルドスの開祖大神官オルテガであった。
尤も本人は大それた事をしている自覚はないのであった。
その大神官オルテガ、本名ミッシェル・ド・ラップ・ヘブンは、今日も毎日の習慣で大通りを散策しているところだった。
すれ違った人々が、オルテガに頭を下げていく。
それに軽く会釈を返しながら、オルテガは町の様子、人々の活気を肌に感じ受け止めていた。
人生の長い期間を旅に費やし、世界中の街角で人々の暮らしを見つめてきたオルテガにとって、雑踏の中に漂う活気はうそ偽りのない町の力、人々の活力であった。
何の変調も覗えないことに安堵し、そろそろ修行所へ戻ろうかと思ったとき、大門の方から元気な声が二つ、重なってオルテガに届いた。


「オルテガ様!」
「オルテガ様!帰ってきました!」
声の方を見ると、大門をくぐり抜けた少年が二人、一目散に駆けて来るところであった。
「トランス、それにクレズも。」
目の前にやってきた二人を見て、オルテガの顔がほころんだ。
背が高く、その分肉付きの薄いトランス。
並みの背丈とやや肉厚な体格を備えたクレズ。
二人は十五、六歳のいかにも育ち盛りの少年だった。
そしてオルドスにとって大切な、神官の卵たちであった。
彼らは遠い異国の魔法大学校へ、半年間の研修に赴いていたのだ。
「オルテガ様、大聖堂の建造が始まったんですね。」
「見に行っても構いませんか?」
挨拶もそこそこに質問攻めをする二人に、オルテガはゆっくりかぶりを振った。
「あなたたちの旅はデンケン先生に報告しないと終わりませんよ。」
オルテガが告げると二人はがっかりした様子を見せた。
「デンケン先生、いっつも話が長くなるもんなぁ。」
「早く大聖堂を見に行きたいのに…。」
二人は顔を見合わせてこぼしたが、オルテガは許可しなかった。
「それより、エル・フィルディンへ行ったのは二人ではなかったでしょう? あとの人たちはどうしました?」
オルテガは二人に聞いた。
「アルフとモリスンは、エル・フィルディンの冒険者と一緒です。」
トランスが町の大門を振り返って言った。
「冒険者?」
オルテガは眉をしかめた。
「はい。魔法大学校からずっと付き添ってくれました。」
クレズが言い添えた。
オルテガは大門の方を見やった。
ちょうど門番から解放されて、三人の旅人が大通りへ入ってきたところであった。

「お~い、アルフ、モリスン! 早かったじゃないか!」
トランスが大声で呼んだ。
三人は声の主を見つけると、真っ直ぐこちらに向かってきた。
「オルテガ様、只今戻りました。」
背の高い、一見して育ちの良さのわかる少年が、オルテガの前で深々とお辞儀をした。
柔らかな金髪が夏の日差しを受けてきらめき、額に嵌めた細いリングが彼に何かしらの威厳を与えていた。
「お帰りなさい、アルフレッド。」
オルテガは少年に声を掛けた。
それから彼の後ろに控えている、若者というには幾分年を重ねた男にも、労をねぎらうように頷きかけた。
「すごいな、ここは。修行の場を作ると言っていたが、これはもう立派な町じゃないか。」
一番最後にやってきた冒険者は、一行の後ろで立ち止まりオルテガに言った。
「フィルディンの王都やヴァルクドにも引けを取らないな。」
オルテガは信じられないものを見たように、無言で冒険者を見返した。
トランスたちも、事の成り行きを興味深そうにじっと見守った。
「ミッシェルさん、俺はそんなに変わったかな?」
冒険者は日に焼けた口元に笑みを浮かべた。懐かしい笑顔がそこにあった。
「あなたでしたか。」
オルテガは懐かしそうに目を細めて旧友を見返した。
「まさか、ガガーブを越えて来てくださるとは思いませんでした。ようこそオルドスへ、アヴィン。」
オルテガは前に進み出るとアヴィンの手を取って固く握りしめた。

「ええっ、アヴィンさん、オルテガ様のお知り合いだったんですか?!」
二人のやり取りを聞いていたトランスが、素っ頓狂な声を出してアヴィンに尋ねた。
「ん?」
アヴィンは一瞬ちらりとオルテガの顔を伺った。
オルテガは苦笑して頷いた。
「ああ、知り合いだ。」
アヴィンが答えた。
「そんな! どうして教えてくれなかったんですか。」
「教えるも何も、お前たちそんな事聞きもしなかったじゃないか。」
アヴィンは意地悪く答えた。
「アヴィンさんがオルテガ様の大冒険の仲間だって知ってたら、絶対冒険談を聞いていたのに!」
「ガガーブを一緒に渡ったんでしょう?」
トランスとクレズが、堰を切ったようにアヴィンに質問を浴びせた。
「おいおい、ガガーブを渡るなんて、そう簡単に人に話せることじゃないだろうが。それに、俺たちのしてきた事は魔法の力を抜きには語れない。ティラスイールで気楽に出来る話じゃないだろう。」
アヴィンが言うと、トランスとクレズはばつが悪そうに顔を見合わせた。

「さあ、帰ってきたことをデンケン先生へ報告に行きなさい。この人は私と用があるからね。」
オルテガは少年たちに告げた。
「はい、わかりました。」
トランスたちは渋々承知した。
「それでは、参りましょうか。」
一番年長のモリスンが他の三人に声を掛けた。
「よーし、俺が一番乗りだ。」
トランスが駆け出した。
「あ、待てよ!」
遅れまいとクレズが走り出した。
「アヴィンさん。」
アルフレッドがアヴィンに声を掛けた。
「いろいろとお世話になりました。」
しつけの行き届いた若者らしく、丁寧に礼をする。
「いや、仕事だからな。」
アヴィンはこそばゆいといった顔になった。
「オルテガ様のお仲間だと知っていたら、僕もお話を伺いたかった。」
少年らしい好奇心を表に浮かべて、アルフレッドが言った。
アヴィンの顔が和んだものになった。
「機会があったらな。お前もがんばれよ。」
「はい。では、失礼します。」
アルフはもう一度礼をすると、立ち止まって待っているモリスンと共に離れていった。

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