「どうやら、本気を出す必要がありそうだ。」
封印の地へ降りる昇降装置を背にして、ミッシェルはつぶやいた。
声に出したのは、自分の世界でさえ滅多に使うことのない「本気」を、自らに納得させるためだった。

ミッシェルは愛用の杖を高々と掲げた。
それから、目を閉じて四方の気を探る。
足元の大地を降りていく力強い気は、アヴィンたち一行のものだ。
心に痛いくらいの必死が感じられる。
その目指す先には、底知れぬ邪気が渦巻いていた。
一筋、清廉な輝きが感じ取れた。アイメルのしなやかな気。
彼らの求めるものはまちがいなくそこにあった。

今度は、この地下神殿に思考を広げていく。
この場を目指してくる数多くの僧兵たち。
彼らもまた、侵入者を許すまいと必死になっている。
ところどころに、僧兵と戦っている者たちもいる。
アヴィンが旅の過程で知り合った冒険者や仲間たちが、加勢に来ているのだ。
彼らの頼もしい強さを心に留めつける。
そして、その先に地上が・・・果てなく広がる空があった。
ミッシェルは大空に向かって呼びかけた。
「風よ・・・」
うっすらと目を開き、ミッシェルは口の中でささやくように、言葉を紡ぎはじめる。
その瞳は、どこか遠くに向けて放たれており、焦点を結んでいない。
「風よ・・・我が友を傷付けること無かれ。その護りのゆりかごにて、友を守れ。」
さわ、と神殿内のあちこちで空気が動いた。

「あれ?」
アヴィンたちの後を追って、神殿を駆け抜けてきたラエルが急に立ち止まった。
「エレノア先生・・・。この気配、何?」
不安げに振り返ったラエルに、後を追いかけてきたエレノアも立ち止まった。
「誰かが術を掛けようとしていますね。とても強い力の持ち主のようだわ。」
「敵・・・かなぁ。」
ラエルが首をかしげる。
「どうでしょう。ラエルは暖かなものを感じないのですか?」
「あ、やっぱり? なんか、怖くないんだよね、この気配。」
緩やかに渦を巻いた風が、二人を包むように絡みついてきた。
「これは風の結界?」
エレノアは、ラエルをかばうように隣に立ち、周囲を見回した。
「先生が付いていますからね。心配はいりませんよ。」
「にゃはは。オイラなら大丈夫。なんたって未来の大魔王使いだもんね。」
お互い、強気に主張しながらも、二人はちょっと不安そうな表情で、風の結界の中に立っていた。

ミッシェルは杖をおろし、目を開いて、満足そうな表情を浮かべた。
それから天井、いや、遥か上空の大空を振り仰いだ。
強いまなざしは、まるで大空がその目に見えているかのようであった。
再び杖を高く掲げ、普段のミッシェルからは想像出来ないほど朗々とした声で言い放つ。
「風よ、風の精霊よ。我の元へ! 邪気に惑わされし者の足を止めよ。いにしえの神殿の隅々まで駆け巡れ!」

ふわりとマントが舞い上がった。
『来た。』
ミッシェルは自らも結界の中に身を置いて、事を見守った。
風など吹き込んだ事のない地下神殿に、すさまじい風の流れが起こっていた。
「な、何だ?!」
神殿の僧兵たちは、いきなり吹いてきた強風にうろたえた。
風は、大きな渦となって、神殿のありとあらゆる場所で荒れ狂っていた。
僧兵を巻き込み、宙に持ち上げ、床に叩き付けた。
「どうして地下にこんな風がっ!」
あちらこちらで、壁に打ち付けられ、あるいは床に転がされて僧兵たちが倒れていた。
辺りには悲鳴とうめき声が充満した。

「一体…どうしたんでしょう、これは。」
神殿の柱の影で、アルチェムが震えながら言った。
「誰かが魔法を使っているね。」
ルキアスが即答した。
「この風、私たちのことは守っているんですね。」
「ああ。きっと、アヴィンたちだよ。」
「ええ。」
アルチェムは力を込めて頷いた。
「追い付きましょうね、ルキアスさん。」
「もちろん。あんたも頑張るんだよ、アルチェム。」
「はい!」

ミッシェルはゆっくりと杖を下ろした。
見渡す広場に、立っている者はもう一人もいなかった。
腕や足を押さえて痛みに耐える者、打ち所が悪かったのか、気を失って動かない者。
少なくとも、今すぐにアヴィンたちの後を追えるような元気な者は一人もいなかった。
「殺生は好みませんが・・・しばらくじっとしていてもらいますよ。」
自分の魔法の成果に満足したミッシェルは、封印の地へ降りる昇降装置に乗り移った。
が、ふと振り返る。
新たな勢力が、また神殿の上部から投入されたようだ。
「オクトゥムの使徒も全力を挙げていますね。」
最深部を目指す仲間たちもこのままではまた捕まってしまうかもしれない。
だが、これ以上彼らに手を貸す必要はないだろう。
彼らもまた、自らの意思でここにやって来たのだから。
「一足先に行かせてもらいますよ。」
姿の見えぬ多くの仲間たちにそう言って、ミッシェルは装置を動かした。
奈落の底へ。決戦の地へと・・・。


次のキリ番リクエストがミッシェルとトーマスなので、まずはミッシェルさんのイメージトレーニング(笑)。
久しぶりに「かっこいい」系のミッシェルさんを書いたような気がします。
ずっと、甘いのとギャグなのしか書いていなかった気がするし。

ミッシェルさんの「本気」は、ドラゴンに化けるっていう説もすっごくイイと思うのですけど、
私にはドラゴンの描写が出来そうにないんで、あきらめました。
魔法も「リーンカルナシオン」や「ブルーアセンション」は、これ、
アヴィンが使えないっていうのがすごーく悔しいので、パスしちゃいました。
やはり最強魔法は主人公に使わせてみたいんですよね。
98版ではいつからエル・フィルディンに来ているかわかんなかったから、何を覚えてても良いんだけど、
WINって確か「来たばかり」と言っていたような・・・ねえ。
それだったら、パーティにいるガウェインとルティスから次々吸収して
強くなってくれたらかっこ良かっただろうに。(あ、でも、アヴィンが拗ねるかも・・・。)
でもって結局「風」にたどり着いたという・・・趣味丸出しですね。
「エアリアル・ラブリス」にしないで、呪文を唱えさせたのは、
やはり98版のおいしいシーンが胸に焼き付いていたから(笑)。