Fanfiction 二次創作|Junkkits

カヴァロ解放

day11-3

睨み合いが崩れたのは、5,6人のヌメロス兵が勢いをつけて輪を飛び出したときだった。
それに合わせたように他の兵士がロッコたちに挑みかかってきた。
「な、何だ?」
「ゼノン司令が、あの中に!」
ラテルが走り去っていく兵士たちを指差した。
「逃げるのかっ!」
ロッコの叫びも、正面から襲ってくる兵士の刃を避けながらでは、ゼノン司令まで届かなかった。
「ええい、どけ!」
ロッコは兵士の剣を弾き飛ばし、体当たりして突き飛ばした。
「どこへ行く気だ、ゼノン司令!」
抜き身の剣を掴んだまま、ロッコはゼノン司令たちの後を追った。
「おっと、この先は通さねえぜ。」
ロッコの前に、ワリスが立ち塞がった。
「見たことがあると思ったぜ、裏切り者め。」
「カヴァロを守ると言いながら、占領していたのはお前たちだ。今こそカヴァロから出て行ってもらう、覚悟しろ!」
ロッコはワリスに切りかかった。

「アクア・スプラッシュ!」
アヴィンは、後方から魔法で攻撃を続けていた。
人を相手に剣を振るうのは苦手だった。
長いこと国内が荒れていたというロッコたちとは、同じように戦えなかった。
それに、大勢の人がいては、全体魔法も使えなかった。
アヴィンは地道に単体魔法を使ってヌメロスの戦力を削いでいった。
「あいつの魔法だ! 紅いバンダナの奴を狙え!」
不意にアヴィンに注目が集まった。
兵士の一人がアヴィンを指差し、攻撃を指示していた。
ヌメロス兵の攻撃が、次々とアヴィンを狙った。
「くそっ、アヴィン一人を狙ってる!」
マイルが後方で援護しながら叫んだ。
「きりがないな。」
切り込んでくる兵士をかわしながらアヴィンが答えた。
「何をしている!」
送り込んだ兵士たちがアヴィンをしとめられないのに業を煮やして、先程の兵士が前線に踊り出た。
他の兵士と剣を打ち合わせているアヴィンの横合いから、剣を繰り出してくる。
「危ない、アヴィン!」
マイルが叫んだ。
アヴィンはとっさに気付いてよけた。
「でやあっっ!」
別の兵士が剣を突いた。
「うわっ!」
アヴィンは身体をひねってかわしたものの、避けきれなかった。剣の切っ先が右腕を切り裂いた。
「ぐあっ!」
剣が地面に落ちた。アヴィンは傷口を鷲掴みにして痛みをこらえた。
「アヴィン!!」
マイルが叫び、アヴィンをかばうように兵士との間に立ちはだかった。
「アヴィン、やられたのか!」
グレイが気付いて、二人を襲っている兵士に対峙した。
「今のうちに下がれ!」
「頼む!」
マイルはアヴィンを引きずるようにして後方に下がらせた。

ヌメロス兵のいない位置まで下がると、マイルはアヴィンを座らせた。
「止血してくれればいいぞ・・・完全に治さなくても。」
アヴィンが自分の腕の付け根を掴み、痛みをこらえて言った。
「何言ってるんだ、ひどい怪我だよ。ちゃんと治さなきゃ。」
アヴィンの腕は血に染まっている。
肘の上が指の長さ位切れて、パカリと口を開けていた。
マイルは傷口に両手を添えて、プレアラの魔法を掛けはじめた。
「マイル!」
アヴィンが厳しい声で言った。
「今はそんな時間はないだろ!すぐに戻るんだ。」
アヴィンは額のバンダナをむしり取ってマイルに突き出した。
「これで、俺の手に剣を縛り付けてくれ。」
「なっ・・・馬鹿なことを言わないでくれよ。」
マイルはバンダナを受け取らず、アヴィンを睨み返した。
その間も、回復の魔法は途切れさせない。
「剣は使えなくても、攻撃魔法はまだ使える。上手く発動させるには、剣が要るんだ。」
アヴィンも譲らなかった。
「マイル、頼む!」

マイルは魔法を途中で止めた。
そして、アヴィンのバンダナを受け取る代わりに、アヴィンの剣を自分で取り上げた。
「何をするつもりだ、マイル。」
アヴィンが眉をしかめた。
「僕がアヴィンの代わりに戦う。アヴィンはここで休んでいて。」
マイルは真剣な顔で言った。
「無茶言うな。マイルじゃ無理だ。」
「僕にも剣が扱えるって言ったじゃないか。」
「それは自分を守れるっていうことだ。実戦で使えるなんて言ってない。」
アヴィンは剣の柄に手を重ねた。
剣を握り締めるマイルの手が、小刻みに震えていた。
「震えてるじゃないか、マイルの馬鹿。二人で一緒に帰るんだろう?どっちかが犠牲になるのはもうなしだ。」
アヴィンの言葉にマイルがはっとした。
「・・・わかった。でも、止血だけはするからね。」
「ああ、頼む。」


「どうだ、戦況は?」
傷の手当てをして戻った二人は、さっそく参戦しながら周りに状況を尋ねた。
「アヴィン、早かったな。傷は大丈夫か?」
「ああ。」
アヴィンは包帯の巻かれた腕を見せた。
手のひらは剣の柄を握った形で、しっかりバンダナで巻きつけてあった。
「戻ると言って聞かないんだよ。」
マイルがあきれたように言った。
「向こう、だいぶ疲れてきたようだな。」
ヌメロス兵を見てアヴィンは言った。
「ああ。連中はゼノン司令を逃がすための捨て駒だな。」
グレイが答えた。
「こいつらは放っといてゼノン司令を追い駆けたいんだが、通してくれないのさ。さすがにしぶとい。」
「魔法でもう一撃してみようか。」
アヴィンが言った。
「大丈夫なのか、身体は?」
「平気さ。早く片を付けた方が良いだろう?」
アヴィンはさっそくヌメロス兵の散らばり具合を確かめはじめた。

『もう一回、エアリアル・ラブリスだ。』
アヴィンは使う魔法を決めて詠唱に入った。
竜巻を起こす魔法。
決して満足するほど強いものではないが、大勢を相手に戦うときには重宝する魔法だった。
腕を前に突き出して構えると、先程の傷がズキンと痛む。
「つっ…。」
アヴィンは歯を食いしばった。
ここでまとめて戦力を減らせば、それだけ決着の付くのが早くなる。
自分の体力のためにも、この一撃ははずせない。
「エアリアル・ラブリス!」
狙いを定めた魔法が、再びヌメロス兵をつむじ風の中で踊らせた。
足元をすくわれ、ある者は空中に吹き上げられて石畳に落下した。
たちまち市民たちが群がり、挑みかかる。
「抵抗を止めろ!剣を捨てた者に乱暴はしない!」
パルマン隊の声が響いた。
「た、助けてくれ。」
市民に囲まれた兵士が情けない声をあげた。
剣を投げ捨て、両手を上げた。
「さあ、もうよせ。こいつを逃げないように縛ってくれ。」
なおも袋叩きにしかねない市民たちを静め、グレイはヌメロス兵を立ち上がらせた。

「馬鹿者ども!戻れ、戦え!」
いち早く体制を立て直したワリスが叫んだが、今度は即座に反応する兵士は少なかった。
10人ほどに減ったヌメロス兵は、自分たちを取り囲む市民に押され、広場から追い立てられようとしていた。
「畜生…。」
ワリスは自分の手駒を見た。
怯えた目つきで剣を構えている奴、剣を震わせている奴、どれも相手の勢いに飲まれてしまって役立たずだ。
『逃げ出したら、ゼノン司令に俺が処罰される…。』
ワリスはごくりとつばを飲み込んだ。
だが、ここにいたらもっと確実にやばい。
ゼノン司令が戻ってきた時、先頭に立って一緒に戦うのと、ここで捕虜になって助けを待っているのと、どちらが情けないか。
そんなの、決まっていた。
「おい、お前ら。」
ワリスは剣を構えたまま、背中を合わせている味方に指示を与えた。

広場の南側にいたヌメロス兵がいきなり大声で喚きながら走り出した。
それを合図に、残ったワリスたちが向かい合う市民たちに剣を大振りして威嚇した。
「うわっ。」
市民たちが後ずさったのを見計らって、ワリスたちも一目散に走り出した。
「逃げた!」
「ヌメロスが逃げ出したぞ!」
たちまち市民が騒ぎ出した。
街の南口まで走り通したワリスたちは、そのまま街の外へ駆け抜けた。
「一時撤退だ、付いて来い!」
南口の見張り兵に一声掛けると、彼らもホッとしたように駆け出した。

「やった・・・。」
「ヌメロスを追い払ったぞ!!」
市民たちは大喜びで街の南口に押し寄せた。
出入り口にも、街道にも、あのいかめしい鎧兜をまとった姿は見えなかった。
「逃げたか…。」
ロッコの周りに、パルマン隊の仲間が集まった。
「やったな。」
グレイがポンと肩を叩いた。
「やりましたね!」
ラテルも笑顔だった。
「一段落だな。」
ロッコがこわばった顔に笑顔を浮かべた。
剣を、鞘に収める。
「まだ、海上へ追い出さない限り安心は出来ない。後を追おう。」
「おい、今捕まえた連中を引っ立てるのが先だぜ。」
ドルクが言った。
「いや、街道を外れて姿を隠すかもしれない。すぐに出発しよう。」
ロッコは譲らなかった。
「どうしたんだ?」
アヴィンとマイルが声を掛けた。
「俺たちはゼノン司令が沼地を離れたかどうか確認に行く。後のこと、君たちに頼んでもいいか?」
「そりゃ、構わないが…。」
てっきり大喜びしていると思ったアヴィンは、ロッコの返事に口ごもった。
「それじゃあ任せる。捕虜を大事に扱ってやってくれ。それと、万一という事もある。出入り口の見張りをしっかりしてくれ。デミール市長にもそうお伝えしてくれ。さあ、行くぞ。」
ロッコは先に立って走り出し、三人があとに続いた。
「責任感の強い奴だな。」
アヴィンがつぶやいた。
「うん。さ、市長さんを探そう。伝言を早く伝えて、早く君の腕を治療したいよ。」
マイルがアヴィンの肩を小突いた。


デミール市長は国際劇場の中にいた。
窓から逐一様子を見ていたと言う市長は、ロッコたちがゼノン司令を追った事も知っていた。
「スタンリー君たちに、投降した兵士をヌメロス大使館へ集めるようお願いしたよ。市庁舎の建物にも、まだ数人兵士が残っているらしいが、これは市の職員が大挙して向かっているから大丈夫だろう。君たちもご苦労だったね。」
市長はアヴィンの腕の包帯を見て言った。
「少し休んだ方が良いんじゃないかね?」
アヴィンは首を振った。
「大丈夫です。俺たちも手伝います。」
「アヴィン!」
「すぐ直してくれるんだろう?」
アヴィンがいたずらっぽく言うとマイルは口を尖らせてアヴィンを睨んだ。
「ったくもう。」

国際劇場の観客席には、避難してきた老人や子ども、宿泊施設のお客などがいた。
アヴィンの治療をしようと思って降りてきた二人だが、人目があって魔法を使うのはためらわれた。
「アヴィンさん、マイルさん。」
二人を呼ぶ声がした。
楽屋からウェンディが顔をのぞかせていた。
「ウェンディ、無事だったか?」
アヴィンが聞くと、ウェンディはにこりと笑って手招きした。
舞台の袖には、カヴァロ三重奏のバルタザール、ヴォルフ、テオドラもいた。
「ここの方が落ち着いて休めると思うわ。」
ウェンディは二人に椅子を勧めた。
「ありがとう。じゃ、ちょっと失礼して。アヴィン、治療するよ。」
「ああ。」
アヴィンは素直に右腕を差し出した。
「怪我をしたのか、アヴィン。」
バルタザールが聞いてきた。
「ああ、ちょっとな。」
「ちょっとじゃないだろ。じっとしててね。」
包帯を静かにはずすと、マイルはアヴィンの傷をそっと手のひらで覆った。
呪文の詠唱が始まると、マイルの手のひらから暖かなエネルギーが放出される。
ウェンディも他の三人も、マイルの魔法にじっと見入っていた。
「よし。」
詠唱を終えると、マイルは念入りにアヴィンの腕を確認し、太鼓判を押して解放した。
アヴィンは右手に縛り付けた剣をほどき、自由になった手を開いたり閉じたりした。
それから腕をぶんぶん振り回した。
「バッチリだ。ありがとう、マイル。」
「すごいな。アリアの歌は奇跡だと思ったが、マイルのは魔法だよな?」
ヴォルフが興味深そうに聞いてきた。
「うん、まあね。」
マイルはあいまいに答えた。
「ヌメロスは逃げ出したんだな。これでやっと安心して眠れる。」
バルタザールが誰にともなく言った。
「もっとひどいことになるかと思っていたわ。早く決着がついてよかったわね。」
テオドラが言った。
「そうだな。ゼノン司令は指揮を取っていなかった。無事に逃げ出す事が最重要だったんだろう。」
アヴィンが言うと、みんな納得したように頷いた。

「そう言えば・・・。」
ウェンディがつぶやく。
「ゼノン司令は旅行の支度をしていたわ。」
「え?」
マイルが聞きとがめた。
「いつ? ウェンディが捕まったときかい?」
「ええ。だって私、それを見てしまったから捕らわれていたんだもの。それまではさっさと追い出せって言っていたのよ。でも私が旅装をじっと見ていたら、その娘を拘束しろって言い出したの。」
「じゃあ、追い出されたんじゃなくて、元々出て行くつもりだったって言うのか?」
アヴィンが聞いた。
「そうなる…かしら。だって、街の人が集まったのは、私が捕まってからですものね。」

「アヴィン!」
マイルが切羽詰った声を出した。
「もし、ゼノン司令が自分の計画通りにカヴァロを出て行ったとしたら…。」
「マ、マイル…?」
アヴィンはひらめくものがなくて困惑した。
「もし、エキュルの木人兵部隊と連絡を取り合っていたとしたら、どこか、街道の途中で落ち合って、また戻ってくるかもしれないよ!」
マイルはじれったそうに言った。
「ええっ!」
「何だって!」
「そんな、それじゃあ…。」
さすがのアヴィンにも、事態がはっきりわかった。
「ゼノン司令が木人兵を指揮して襲ってくる!?」
「可能性は高いと思うよ。」
マイルが立ち上がった。
「冗談じゃない。止めないと!」
アヴィンも表情を引き締めて立ち上がった。
「ロッコたちがすぐに追ってくれて良かったな。俺たちも後を追おう。」
「うん、そうだね。」
「アヴィン、マイル、気を付けてな。」
バルタザールが言った。
「僕が市長さんに伝えるよ。皆で街へ侵入されないように対策をする。」
「ああ、頼む。」
「二人とも、気を付けてね。」
ウェンディとテオドラが気丈に言った。
「ありがとう、大丈夫だよ。」
マイルは二人を安心させるように笑顔で答えた。

国際劇場を出ると、マイルの顔から笑顔が消えた。
「急ごう、アヴィン。」
「ああ。」
アヴィンも言葉少なに答えた。
まだ終わってない。
二人は南口から沼地へ続く街道に出て行った。


「ああっ、海がっ!」
マストに上がった見張りが金切り声で叫んだ時、突然強い横風がヌメロス軍の艦隊旗艦を襲った。
「何だこれは!?」
自室から飛び出して来たガゼル艦長が見たものは、豹変した海と空だった。
ついさっきまで順風だった風が、まるで嵐のように荒れ狂っている。
海は大きなうねりを起こし、波を砕けさせていた。
空は重い雲が垂れ込め、夜のように暗くなっていく。
「一体全体これは…。」
ガゼル艦長は口に出してつぶやいていた。
「一体、何が起きたのだ。」
そのとき、ガゼル艦長の横に気味の悪い風貌の男が立った。
落ち窪んだ目、緑色のだらしない長髪。
しかし、まとっている衣服はその男が高官であることを示していた。
「わからん、あっという間にこうなった。」
ガゼル艦長はそっけなく答えた。
「普通の天気の変化とは思えん。これは魔道の仕業か?ネクロス殿。」
ガゼル艦長は不快感をあからさまにして男に尋ねた。
ネクロスは仰々しく頷いた。
「いかにも魔道の仕業だ。わしのテレポートも働かんわ。…しかし、海を思い通りに操るなど、そんな力の持ち主がいるとは……。」
ネクロスは手すりから身を乗り出すようにして船の周りを伺っていた。
傍から見ていても、ネクロスが焦り、うろたえているのがはっきりとわかった。
『こりゃあ痛快…じゃねえ、とんでもない敵がいるって事かい?このネクロス殿が真っ青になるなんて、俺は初めてお目にかかった。』
ガゼル艦長は心の内で考えながら、部下たちの動きに目を光らせる。
動揺する間こそあれ、経験豊富な部下たちは、すぐさま帆のしまい込みにかかっていた。
「ネクロス殿。これが魔道の嵐だとして、どの位続くものだ?」
ガゼル艦長が尋ねると、ネクロスはやっと我に返った。
旗艦艦長の前で自分のあせる姿をさらしたと気付き、取り繕うように胸を張った。
「わからぬわ。それこそ術者の力量次第。お主はさっさと船を進めるがよい。」
「それは無理な相談だ。嵐の只中へ引き込まれて、敵の思う壺にはまるのはご免こうむる。ここは一時停泊して嵐の収まるのを待つほうがいい。」
ガゼルが言うと、ネクロスはとんでもないという顔をした。
「ゼノン司令は、3日で合流せよとのご命令だぞ。今日中にカヴァロへ着かねばならぬのだ。こんな所で立ち往生している場合ではないわ。」
「遅れて到着して叱責されるのと、永遠に海の底に眠るのと、閣下はどちらがお好きなのですかな?」
真顔で尋ねると、ネクロスは眉をピクピクと震わせた。
「ええい、勝手にしろ!お前の判断で遅れたと報告するからな!」
ネクロスがガゼル艦長に指を突きつけて言い渡した。
「ご随意に。勝手にさせていただきます。」
ガゼル艦長は丁寧に一礼すると、全艦にとどろくような声を張り上げた。
「停船ーっ。嵐をやり過ごすぞ!」

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