Fanfiction 二次創作|Junkkits

カヴァロ解放

day1-1

アリアたちの脱出から一日が明けた。
国際劇場の臨時市役所には、カヴァロの主だった人物が集まってきた。
デミール市長に市役所のスタッフの面々。メリトス女史。商工会のマシュー親方、武器屋、道具屋の店主、宿泊組合長などである。
そこで最も新しい情報交換が行われた。

「ヌメロス軍のアリアさん捜索は無駄足だったようです。今日も、朝からニ十人ほどの兵士が捜索に出て行きました。」
ヌメロス軍の様子を見張っていた者が言った。
「パンの注文の数からすると、カヴァロに駐屯している兵士は四十名ほどだ。うちは市庁舎の隣だから、兵士がばたばたしていれば気がつく。だから、今のところ増援が来る可能性はないよ。」
パン屋を営んでいるマシュー親方が言った。
「仕入れ予定だった武器は街の出入り口で全てヌメロス軍が取り上げています。うちの店には、まだいくらかは残っていますが。これだって、いつ回収されるかわかったものじゃない。」
武器屋がお手上げだという表情で言った。
「食料や酒も、だいぶヌメロス軍に流れています。仕入れたい物が十分に入ってこない。まあ、完全にストップされるよりはましですが。」
「食料の事も心細いが、宿屋ではもっと困った事になっているんですよ。」
宿泊組合長が控えめに発言した。
「どうされました?」
デミール市長が尋ねた。
「足止めされている旅行客の中には、お金を使い果たした人が出始めているんですよ。木人が街道に出てからもう何日も経ちますからね。事情が事情だけに追い出すわけにも行かなくて、無料で滞在させている店がいくつもあります。このままでは先行きが不安ですよ。」
「それはいけませんな。」
「やはり、あまり気長に構えていられませんね。ヌメロス兵の正義に訴えるだけではなくて、追い出すための作戦が必要ですわ。」
メリトス女史が言った。

「市長。」
マシュー親方が尋ねた。
「ヌメロス軍の狙いはどこにあるのでしょう。アリアさんが必要だったのか、それとも我々の街なのか。」
他のメンバーも頷いた。
「アリアさんを追ってカヴァロを出て行く様子がないのだから、我々の街を占領することも彼らの作戦のうちでしょう。」
「やはり・・・。」
「パルマン隊長が言った木人のことでゼノン司令に質問状を送ったのだが、あれはパルマン隊長の狂言だと返事をよこしたよ。ヌメロス軍は木人の脅威からカヴァロを守るために駐屯していると言い張っている。」
デミール市長が答えた。
「そんな事、もう誰も信じやしないのに。」
「ヌメロスの目的は、このカヴァロの街を手に入れる事ではないかしら。前に豪商リッシュが国際劇場の経営を肩代わりすると言ってきたときも、何だかきな臭い裏がありそうだったわ。」
「軍事国家に必要なのは豊富な資金力ですからな。メルヘローズの要を押さえれば、ヴェルトルーナ全域に進出する大きな足掛かりになりますし。」
外交官が言った。
「しかし、まさかこんな手段に訴えるとは思いませんでした。見通しが甘かったです。」
「カヴァロを乗っ取るなんて事、させてたまるか。」
「剣を取って戦うのはいやですね。うう、想像しただけで体が震える。」
道具屋の主人が言った。
「誰も好んで戦おうとは思っていないでしょう。ヌメロスの兵士だって・・・同じだと考えたい。しかし、問題山積みですな。」
デミール市長が皆を見渡して言った。

「まずは食料の確保を最優先したいですね。そのためには、ヌメロス軍を下手に刺激しない方がいい。」
「市長。それでは彼らの思う壺でしょう。」
「メリトスさん、もしも食糧の流通を完全に止められたら、カヴァロは何日持つかご存知ですか?」
「一週間や十日は何とかなるでしょう?」
「それは普段の場合です。木人が出現してからは出荷を見合わせている産地もあるし、ヌメロス軍に恐れをなして納めに来ないところもある。今、三日も食料が入ってこなかったら、この街は大変な事になりますよ。」
「『星屑のカンタータ』の公演前でしたからね。各地からお客さんが到着して、賑わっていたんですよ。」
宿泊組合長が言った。
「皆さん、帰りたくても帰れずに、宿に引きこもっておいでです。」
「そうだったわね。軽率でしたわ。大切なお客さまなのに・・・。」
メリトス女史が大きなため息をついた。それでも、一瞬も休みなく、頭は回転しているようであった。

「食料は、今の体制で何とかなる。次は市民の安全と、カヴァロに来てくれたお客様の安全を考えなくてはいけませんな。」
デミール市長が言うと、宿泊組合長が安堵の表情を見せた。
「お客様方には、当分今の宿で寝泊りしていただきましょう。支払いが滞った分は、後で市の予算から何とかひねり出します。メリトスさん、あなたの系列で、何とか後払いで宿の仕入れに応えて頂けませんかな。」
「承知しましたわ。先程の食料の事もあるし、いざという時のための倉庫を開けましょう。最低限の必需品は何とかなるでしょう。」
「それはありがたい。」
「ありがとうございます、メリトス社長。」
「こんな時ですものね。商売なんか考えていられないわ。」

「ヌメロス軍の動向は、市役所の職員が交代で見張っています。街の皆さんに協力していただきたいのは、軍を刺激しない事と、もし、腕に覚えのある人がいたら、手を貸していただきたいという事です。」
「市長、ヌメロス軍に刃向かうつもりですか?」
マシュー親方が言った。
「今すぐという事ではないがね。我々は軍隊を持たない。それが今回はあだになった。しかし、ここで足止めを食らった傭兵が二人、協力してくれる事になったのでね。彼らに少しでも学んで、力を付けたいと思うのだよ。」
「ほう、それなら知り合いに声を掛けてみようかな。」
「頼みますよ。ああ、それと、音楽家の若者たちが、あちこちの食堂や酒場、宿屋で音楽を披露したいと言っている。」
「ほう?」
「『星屑のカンタータ』のような格調高いものではなく、親しみのある愛唱歌や、流行歌を披露したいそうだ。歌姫ウェンディをはじめ、カヴァロ三重奏やそれに連なる若者たちがやる気になっている。」
「それは、良いかもしれません、市長。」
宿泊組合長が言った。
「気分が沈みがちなお客様にも、宿の従業員たちにも、励みになるでしょう。」
「若者たちの努力には、惜しみない協力をしてあげてください。血生臭いことを考えるのは我々だけで結構だ。彼らなりの戦いを見守って、支えてやって欲しい。きっと、それがカヴァロの力なのですよ。」
デミール市長の言葉に、一同は頷いた。

「ヌメロスとの交渉ですが、実は今、ある方からパーティのお話をいただいているんです。」
メリトス女史が言った。
「パーティですと? このカヴァロでですか?」
「ええ、時期が時期だけにお断りしようと思っていたんですが、チャンスかもしれません。カヴァロに別荘を持っている貴族なの。『星屑のカンタータ』を一刻も早く見たいから、自分の別荘に招待するから演奏して欲しいと言うのよ。顔の広い人でね、ゼノン司令も招待すると言っていたわ。」
「そこでやり合う御積もりですか?」
「まさか。私が出ても効果がないわ。でも、資金力のある貴族の言う事は簡単に袖には出来ないでしょう。」
「ヌメロスには、軍事費以外の予算なんてないに等しいですからね。」
外交官が揶揄した。
「食糧の流通を止めない事だけでも、約束を取り付けられれば大助かりでしょう?何とかお願いして、ゼノン司令に言ってもらうようにするわ。」
「頼みますよ、メリトスさん。」
「市長にもお越しいただこうかしら。貴族ですからね、紳士のたしなみの相手も求めておいでよ。」
「いやー、この件が解決するまでは、楽しみ事など考えてはおれませんよ。赤と黒の誘惑は、いずれまた。」
「残念ね。」
メリトス女史はにこりと笑うと、一人席を立った。
「では私はさっそく段取りをつけに行きますわ。音楽家たちの演奏会については、バルタザール君が仕切っています。演奏を頼む店があったら、彼に直接話をしてみてちょうだい。皆さん、それでは失礼。」

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