Fanfiction 二次創作|Junkkits

カヴァロ解放

day1-2

夕刻になると、食堂では酒が出回り始める。
食事を取る者と酒を楽しむ者が、ごちゃ混ぜになる時間帯であった。
メリトスの宿、ホテル・ザ・メリトスの酒場では、演奏の下見に来た四人の音楽家が呆然としていた。

一日じゅう街の西の街道でアリアを探し回っていたのだろう。疲れた顔をしたヌメロス兵が、酒に酔って、ろれつの回らない声で何か叫んでいた。街の者は、兵たちを全く無視するか、あるいは刺激しないようにひっそりと、食事を口に運んでいた。
食事を楽しむ場とは思えない、張り詰めた雰囲気が漂っていた。
「こんな所で演奏をするの?」
テオドラがあまりのことに驚いて言った。
「・・・私たちがそうしたいと言ったのですもの。」
歌姫ウェンディが、いつもの微笑みに変えて、真剣な表情を浮かべて答えた。
「おや、歌姫ウェンディちゃん!」
不意にテーブルの間から声が掛かった。
「!!」
四人がハッとする。たくさんの人が顔を上げた。ウェンディと、カヴァロ三重奏の姿を見つけると、酒場全体がわっと盛り上がった。
「あんたたちの演奏は最高だよ!」
「ここで歌ってくれるのかい?」
街の人の歓迎振りは、思わず胸が熱くなるほどだった。ヌメロス兵も殆どはやんやの喝采をしていた。歌姫ウェンディの名声は、ヴェルトルーナ全域に広がっているのだ。だがもちろん、そういう好意的な歓迎ばかりではなかったのである。

「オイ、歌姫さんよぉ、昨日はよくも俺たちをはめてくれたなぁ。」
酔っ払ったヌメロス兵の一言が、酒場の雰囲気をさっと冷たいものに変えた。
「おいおい、よせよ。」
一緒に食事に来ていた兵が止めるが、酔った勢いで何も耳に入らないらしい。
酔っ払った兵士は、立ち上がってウェンディに近づいていった。バルタザールとヴォルフが顔をこわばらせてウェンディの前に出た。
「こら、よさないか。」
酒場の隅のテーブルに座っていた茶髪の青年が、音楽家たちの前にさっと立ちふさがった。
「なんだぁ、お前。どけどけぇ。ウェンディちゃんの顔が見えないじゃねえか。」
「自分の席に座って見てくれよ、兵隊さん。そんなところに仁王立ちになったら、ほかの人が見えないだろ?」
「何だとぉ。やい、どこのどいつか知らねえがな。俺たちはこの街を守ったんだ。あの、へんてこな木人からな。それがなんだ、胡散臭そうな目で見やがって。」
「おい、こんな街の中でケンカ売るなよ。」
兵士の仲間が酔っ払った仲間の袖を引いて懇願した。
「やめろよ、な、な。こんな事がゼノン司令の耳に入ったら、お前も俺たちもただじゃすまねえぞ。」
酔っ払いがはじめて仲間の声に耳を貸した。
「ゼノン司令が・・・?」
その顔に恐怖の表情が浮かぶのを、アヴィンは間近に見た。
「さあ、席に戻ってくださいよ。あなたも食事に来たんでしょう?」
兵士の後ろからマイルも声を掛けた。
「ちっ、覚えてやがれ。」
兵士は床につばを吐いて、自分のテーブルに戻っていった。

「こんばんは、兵士さん。これ、うちの店の新製品なんだ。レオーネ豆の入った巻きパンだよ。」
騒ぎが収まったと見て、ヌメロス兵のいるテーブルに、黒髪の青年がパンを配り始めた。
「おお? なつかしいなあ。俺のばあちゃん、このパン焼くのが得意なんだぜ。」
「ほんと? 今度焼き方のこつを教えてくださいよ。」
「へへ、お袋の味がするぜ。ありがとよ、坊主。」
「市庁舎のすぐ近くの『マシューズベーカリー』だよ。皆さんに懐かしい味を楽しんでもらおうと思って。毎日焼くから、楽しみにしててね。」
青年はかごに入っていたパンを全部配り終えると、バーテンに挨拶をしてから、バルタザールたちの元へ来た。
「アルトス、いいタイミングだったぞ。」
ヴォルフが珍しくアルトスをほめた。
「そうですね。僕が入ってきたときは大変な事になるんじゃないかって心配でした。」
「で、店の手伝い中か?それとも演奏会の下見に来たのか?」
「う~ん、両方かな。戻ったらレオーネ豆のパンも焼かなくちゃいけないし。でも親方は、僕にしか出来ない事があるなら後悔するなって言ってくれました。」
「じゃ、ちょっとここにいろ。下見が済んだら、明日の演奏曲を指導してやる。」
「はい。」

「ステージがここじゃまずいかな。」
食事の客が一段落したところで、バーテンが皆を案内した。
店の奥のテーブルを一つ取り払って、ちょっとした段差の舞台が設けてあった。
「急ごしらえだけど、ここならどのテーブルからも良く見えるからね。ただ、何かあったときには、お客から近すぎるかな。」
バーテンはウェンディを見た。
「ご心配ありがとう。でも、街の人もいてくれるし、傭兵さんもいてくれるから、大丈夫だと思うわ。」
ウェンディは、少し離れたテーブルに座っているアヴィンとマイルに手を振って見せた。
マイルがにっこりと笑って手を振り返した。
「君たちに危険が迫ったら、僕も飛び出す覚悟だよ。いずれにせよ、明日の様子次第だね。さっきの酔っ払いみたいな奴は、毎日いると思ったほうがいいよ。」
「そうなの?」
心配そうにテオドラが言った。
「大丈夫だよ、テオドラ。」
安心させるようにバルタザールが言った。
「彼らだって、揉め事を起こさないように言われているに違いない。話し合えばわかってくれるさ。」
「食い物のあるところに酒は付きものだからね。傭兵さんの出番があるかも知れないな。何日か様子を見たほうがいいだろう。酔っ払いが絡んだって事は、メリトス社長に報告しておくよ。君たちも、社長を見かけたら言っておいてくれるかい?」
バーテンが言った。
「わかりましたわ。あまり心配させると、このアイディアを潰されてしまいそうですけど、社長に黙っているわけには行きませんもの。少々危険の可能性があるという事ですね。確かに伝えますわ。」
「さて、それじゃアルトス、稽古をつけてやる。」
「よろしくお願いします!」
「私たちも帰るわ。」
「では送るよ、テオドラ。」
「ありがとうバルタザール。ウェンディは?方向が違うわね。」
「じゃ、僕が送りましょうか。」
マイルが立ち上がった。
「俺も行こうか?」
アヴィンが言ったが、マイルは首を振った。
「二人でなくてもいいだろう。アヴィンは休んでてよ。」
「はいはい。送り狼になるなよ。」
「僕はそんな非常識はしないよ!」
一体どこでそんな言葉を覚えてきたのだろうと首をかしげながら、マイルはウェンディをエスコートして酒場を出た。

二人が街を南北に走る大通りへ出たとき、前方から人影が近づいてきた。ふらりふらりと揺れている人影は、先程酒場でからんできた兵士だった。
マイルはウェンディを後ろにかばった。
「お兄ちゃん邪魔だなぁ。どきな。」
酒臭さが漂ってきた。暗がりでもわかる、ヌメロス兵の軍服。一人のようだ。さっき一緒のテーブルにいた仲間は見あたらない。
「悪いけど、この人には手出しさせないよ。」
「へ、お人形みたいなおにいちゃんに何が出来るってえ?」
酔った兵士はマイルに突っかかってきた。
後ろにウェンディをかばっているので、逃げてかわす訳には行かない。マイルは兵士と組み合った。
「くっ・・。」
決して力自慢ではないマイルである。全力でも、押し切られないのが精一杯であった。 兵士の方もこれで全力らしい。二人はしばらく押し合っていたが、酔った兵士が後ろに引いた。
ホッとしたマイルは、後ろのウェンディの無事を確かめた。そして前に向き直ったとき、マイルの頬に兵士の拳骨が炸裂した。
マイルはよろめいたが、足を踏ん張り、ウェンディの前に立った。
「何度言ったらわかるんだい。この人には手を出させない。」
「誰かっ、手を貸して!」
ウェンディが大声を張り上げた。ヌメロス兵がぎくりとしてあたりを見回した。
「へへ、こんな夜更けに出歩くお馬鹿さんはいないってさ。」
あたりに人影がないと見て、兵士は再びマイルににじり寄った。素人の動きではない。強制的に借り出された民間兵ではなかったようだ。
『手を出しちゃだめだ。こっちから火種は蒔かないんだ。』
マイルは頬のジンジンする痛みをこらえながら、心の中で繰り返していた。
左手はさっきから腰の剣の柄を握っている。抜いてはならないと思いながらも、今のマイルはこの剣にすがるしかないのだった。
「おいっ、何をしているんだ!」
後ろから、限りなく頼もしい声が聞こえた。マイルは心底ホッとした。
「アヴィン!」
「大丈夫か?マイル、ウェンディ。ここは俺に任せろ。」
勇んで前に立ち、剣の柄に手をかける。
「アヴィン、剣を抜いてはいけない!」
マイルは慌てて叫んだ。
「な、なんでだよ、マイル。」
拍子抜けしたようにアヴィンが言った。
「乱闘になったら、奴らに口実を与えてしまうだろ! いいかい、絶対に剣を使っちゃだめだからね。」
「ちぇ、融通が利かないなぁ。」
「腕っ節には自信がないんだった?」
「まさか。」
アヴィンは剣を鞘ごとマイルに預けた。
「これで大丈夫。すぐに加勢も来るはずだ。マイルは一度戻れ。」
「わかった。ウェンディ、アヴィンに任せて、走るよ。」
「え?でも、アヴィンさん一人では・・・。」
「すぐ応援が来る。早くホテル・ザ・メリトスへ戻れ。」
「わかったわ。気を付けてね。」

マイルとウェンディがホテル・ザ・メリトスへ着くと同時に、ホテルからも血相を変えた街の人たちが飛び出してきた。
「ウェンディ、大丈夫かい?」
「ええ、私は大丈夫。アヴィンさんが一人で戦っているわ。みんな行ってあげて。」
「誰か、ウェンディを頼むよ。」
マイルがウェンディを預けて、大通りに引き返していった。
その後ろを、街の男たちが数人追いかけていった。

しばらくして、皆は戻ってきた。 アヴィンは腕にあざを作っていた。
「大丈夫。あっちも似たようなもんだ。骨が折れるような事はなかったから、ただの喧嘩で済むだろう。」
手当てしようとするウェンディを断ってアヴィンは言った。
「ウェンディには、街を出歩くときの警護も必要なんじゃないか?」
アヴィンが言うと、ウェンディは笑って首を振った。
「他所の町ならともかく、この街でボディ・ガード付きなんていやですわ。」
「アヴィンさんに頼んだらどうだ。アヴィンさんなら、兵士が怖がって近づいて来ないよ。」
バーテンが言った。ウエイトレスも頷いた。
「でも、マイルさんの方がいいんじゃない? 顔立ちが優しいから警戒されないんじゃないかしら。」
「僕たちは見張りを言い付かっているからね。町の人で交代で守ってあげたらいいんじゃないかな。」
「それも社長に言ってみるか。」
「そうですわね。」
しぶしぶという顔でウェンディも頷いた。

その後、今度は二人でウェンディを送り届け、アヴィンとマイルはやっと宿屋の部屋へ引き上げた。
「毎日昼も夜も警備してたら身が持たないかな?」
マイルが言った。アヴィンは自分の寝台に早くものびていた。
「夜は交代で見張るってのはどうだ?」
「そうだね・・・今晩のような事がなければ一人でもいいんだけどね。」
マイルは納得しないようだった。
「昼も、街の人と一緒に組んだらいいよね。志願者がいるって市長さんが言ってたよ。少しずつでも、人数を増やして時間を組んで見張ればいい。」
「そうだな、そうしよう。」
アヴィンが頷いた。
「こういう取りまとめって、神経を使うものだな。」
「アヴィンは苦手だよね。」
マイルが苦笑して言った。
「ああ。」
アヴィンは否定しなかった。
「酒場の警備も辛いかも知れないな。」
「いざって時のためにお酒は厳禁だからね。」
「酒はともかく、どうやって時間をつぶせばいいんだ?」
「音楽を聞いていればいいじゃないか。」
「眠くなりそうだな。」
アヴィンの正直な感想に、マイルは頭を抱えた。
「失礼な事を言うなあ。彼らはカヴァロを代表する演奏家と歌手なんだよ。そんな事、聞こえるところで言っちゃダメだよ。」
アヴィンは肩をすくめた。
「わかった。そうするよ。」

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