Fanfiction 二次創作|Junkkits

カヴァロ解放

day6-1

夜明け前、ミッシェルは朝もやの立ちこめた高架水路の取り入れ口にいた。
やがて小走りに足音が聞こえ、アヴィンが大きな包みを抱えて姿を現した。
「これ、弁当代わりに食べてくれ。」
渡された包みから、香ばしいクルミパンの匂いが漂ってくる。
「ルカたちにもよろしくな。」
笑顔でアヴィンが言った。
プラネトスII世号へ寄ると言ったら、いいものがあると引き止められたのである。
昨夜の事はしこりになっていないらしい。アヴィンの笑顔は屈託がなかった。
「それはどうも。でも、食べ物には懐柔されませんよ?」
ミッシェルは念を押した。
「だめか。」
アヴィンは肩をすくませた。
「ミッシェルさんに知恵を貸してもらえたら安心なんだが。」
「この街の人は、自分で立ち上がれますよ。あなたやマイルさんがいる事で、街の人も頑張ろうという気持ちになっているでしょう。私が入れ知恵するよりずっと良い事です。」
ミッシェルは言った。
「そうだろうか。俺もマイルも、神経が苛立っているのがわかるんだ。突破口が欲しくて仕方ない。」
「力を抜く事も覚えた方がいいですよ。それこそ、昨日の演奏会に行ったほうが良かったのではないですか?」
「冗談だろ? 俺は沼地へ行けて良かったよ。久しぶりに憂さ晴らしが出来たしな。」
「では、しばらく我慢が出来ますね?」
ミッシェルがまじめな顔で言った。
アヴィンは黙り込んだ。
ミッシェルの言葉には重みがあって、とても軽口を返すことは出来なかった。
「どうか短気を起こさないでください。剣や魔法を使わなくても、戦いは出来るものです。あなたの知っている戦いとは違うかもしれないが、あなたが一人で剣を振るっても仕方ない事です。頻繁には来れないかもしれませんが、気に掛けていますからね。」
「ミッシェルさん・・。」
「昨日、沼地で会った兵士たちにもう一度会ってごらんなさい。それでも道が開けなかったら相談に乗りますよ。」
それが精一杯の譲歩だとミッシェルは言った。
「マイルさんにもよろしく。心配させたでしょうからね。」
ミッシェルは杖を軽く振った。
呪文を詠唱したとも思えないのに、たちまちもやが渦巻き、それが収まったときには魔道師の姿は見えなくなっていた。
アヴィンの顔から緊張が消え、両方の肩が空気を抜いたように緩やかに下がった。
再び、模索する日々が始まるのだった。


夜の明けないうちに起き出したマイルは、部屋の窓から外を眺めていた。
一面濃いもやがかかっていて、視界がほとんどなかった。
『こんな濃いもやがたち込めるなら、ヌメロス軍に気付かれずに市庁舎を囲む事も出来るかもしれないな。』
もっとも接近戦になるだろうから、マイルの出番はないに等しくなるだろう。
後方で怪我人の手当てをするか、それともやはりブーメランを背中に、高い場所から全体の支援をする事になるだろうか。
『何にしても、この街には力のある男が少なすぎるよ。』
自分たちが一番当てにされているのは、気が重くなる。
『アヴィンがミッシェルさんを口説き落としてくれると良いんだけど。』
アヴィンならきっと頼んでいるだろうと、マイルは思った。
頭の勝負なら、ミッシェルが力を貸してくれたら百人力だ。
だが、力になってもらえる望みは薄いような気がしていた。
自分たちがカヴァロに残ると言ったとき、ミッシェルは手伝えないと明言した。
あの魔道師が軽々しくそんなことを言うとは思えなかった。
おそらくミッシェルは手一杯なのだ。
とっさに手伝えないと言い切ってしまえるほどに。
アヴィンはミッシェルにいつも余裕があると思っているらしいが、マイルはそうは思わなかった。
特にリュトム島での企みが失敗し、ヌメロス帝国が自ら動き始めてからは、ミッシェルも自分たちも、彼らの後を追いかけているような気がしてならなかった。
自分たちにミッシェルの代わりは出来ない。
あの魔道師の肩には重いものが掛かっている。
彼の行動を邪魔しない方がいいのだ。極力自由にさせてやるべきなのだ。
「でも、僕たちも助けが欲しいや。」
マイルはつぶやいた。
マイルもまた、気が滅入っているのかもしれなかった。


朝もやが晴れ渡った頃、やっとアヴィンが戻ってきた。
「おはよう、マイル。」
「アヴィン。どこに行ってたの?」
「ミッシェルさんと一緒にいた。連絡しないで悪かったな。」
アヴィンは向かいの椅子に座った。
「僕も夜中だよ、戻ってきたの。」
何も問題は起こさなかったらしいと安心しかけて、マイルはハッとした。
アヴィンが怪訝そうな顔をした。
「・・・アヴィン。」
「な、なんだよマイル、そんな恐い顔してさ。」
一転して疑いのまなざしになったマイルにアヴィンは戸惑う。
「ミッシェルさんと、どこで、何をして来たのさ。」
「えっ!」
アヴィンがうろたえた。
何か言い繕おうとしても、口がパクパクするばかりで言葉にならなかった。
後ろめたい事があるのは一目で明らかだった。
「隠してもダメ。これ、何で付けているの?」
マイルはアヴィンの頭のバンダナを引っ張った。
バンダナはするりとほどけて、マイルの手に落ちる。
アヴィンは軽率だったと気が付いたが、もはや後の祭りだった。
「防具もちゃんと付けちゃって。二人で、どこか危ない場所へ行ったんだろう?」
「うう・・。」
図星なので何も言い返せず、アヴィンはマイルの小言を浴びる羽目になった。
「全くもう、君ってやつは。目立つなって言った人まで巻き込んでどうするのさ。何をしてきたか知らないけど、無事で済まなかったらどうするつもりだったの。」
「別に、ヌメロス軍と戦ったわけじゃないよ。南の沼地へ行ったんだ。ミッシェルさんは共鳴石のことを調べたがっていたし、俺は、・・外へ出られればどこでも良かったから。」
アヴィンは弁解した。だがマイルの怒りはなかなか収まらなかった。
「ミッシェルさんもミッシェルさんだよ。アヴィン一人を甘やかすなんて。」
「俺が塞いでいたから誘ってくれたんだ。そう悪く言うなよ、マイル。」
アヴィンがなだめようとするが、マイルは聞かなかった。
「そうだ、ミッシェルさんは? 一緒じゃないの?」
「朝早く、もやがかかっているうちに発ったよ。マイルによろしくって言ってた。」
「ずるいよ、アヴィン。カヴァロに閉じ込められているのは、僕だって同じなんだよ。僕だって、この先の事とか色々と相談したかったのに!」
滅多に見せない差し迫った表情で、マイルが訴えた。
それが、マイルのぎりぎりの精神状態を表していると、アヴィンは知っていた。
「マイル・・・。」
アヴィンがすまなさそうな顔になった。
自分ばかり気分をリフレッシュしてきた事を申し訳ないと思った。
「悪かった。これからは抜け駆けしないよ。」
アヴィンはしおしおと頭を下げた。
マイルはこぶしを握りしめてうつむき、口を開こうとはしなかった。

しばらく重い沈黙がただよった。
「・・・昨夜、ミッシェルさんと話し合ったんだ。俺、あの人にカヴァロのことを手伝ってもらえないか聞いてみたんだけど、断られちゃったよ。」
アヴィンは唇を噛んでいるマイルに言った。マイルが顔を上げた。
「何だって?・・アヴィン。」
「俺たちだけじゃ大変だから、ミッシェルさんに助言してもらえないかって聞いたんだ。でも、駄目だって言われちゃったよ。ごめんな、役に立たなくて。」
「そんなこと・・・アヴィン、やっぱり聞いてくれてたんだね。」
マイルがパッと明るい顔つきになった。
「え? やっぱりって・・・マイル?」
アヴィンが腑に落ちないという顔をした。
「アヴィンなら、きっとそう言ってくれると思っていたんだよ!」
「でも、断られちゃったんだぞ。」
アヴィンにはマイルの急変化の理由がわからなかった。
「ミッシェルさんが大変なのは僕にもわかる。断られた事は問題じゃないんだよ。ありがとう、アヴィン。」
「??」
「やっぱり君は僕の親友だよ。」
「よせよマイル。」
急に態度を豹変させたマイルに驚きつつも、アヴィンも嬉しかった。
アヴィンの抜け駆けのせいで二人のコンビにひびが入ったら、悔やんでも悔やみきれないところだった。

「俺たち、まずカヴァロの人たちに、苦しいと思っている事を打ち明けた方がいいと思うんだ。」
アヴィンが言った。
「カヴァロの解放のために手伝うって決めたけど、それは、武力を持たない市民を見たからだったろ? でも、ヌメロス軍は武力ではカヴァロを支配していなかった。それは俺たちには肩透かしだった。互いに陣地に閉じこもって、にらみ合いをするような時には、武力じゃなくて、策略の方が有効なんだ。」
マイルが同意した。
「俺たちも、役に立てるように考えたけど、策略は得意じゃない。誰か、カヴァロにこの人ありっていう策略家を付けて欲しい。・・な、そうやって、言ってみようぜ。」
「そうだね。いつまでも僕たちだけで抱えていても、解決出来ないよね。」
マイルは言った。唯一の頼みのミッシェルに断られたのだから、あとは誰も当てがないのだ。カヴァロの人に探してもらうしかない。
「さっそく今日にでも言ってみようよ。」
マイルの言葉にアヴィンも頷く。

「それと、昨日アリアさんを付けていた部隊の四人に会ったんだ。」
アヴィンが言った。
「え? でも、アリアさんを助けたあとカヴァロから脱出して行ったんじゃ・・・。」
「ああ。カヴァロへ戻って来たって言っていた。隊長はいなかったけど、残りの四人は皆いたんだ。」
「それで?」
「それだけなんだけど・・・。でも、彼らは軍人だ。」
「僕たちとしては、話しやすい相手かな。」
「少なくとも音楽家よりは話しやすい。」
アヴィンの言葉にマイルは吹き出しそうになった。
「アヴィンったら・・・。そうだ、こっちでもちょっと気になる事があったよ。」
マイルは例の兵士がウェンディを脅していた事を伝えた。
「そんなことがあったのか。ウェンディは大丈夫だったのか?」
アヴィンは眉をひそめて聞いた。
「大丈夫。気の強い娘だし、僕とエノラさんも居たからね。だけど、あのヌメロス兵、目に付く奴だね。」
「注意しておいた方が良さそうだな。」
「うん。用心に越したことはないよ。」

「マイル、さっそくデミール市長のところへ行こうか。」
アヴィンは沼地へ行くときにつけた防具を脱ぎ、いつもの市民風の身なりになって言った。
「僕、食事がまだなんだけど、アヴィンは?」
「済ませたよ。」
軽く答えてから、マイルが自分を待っていたのだと気付く。
「・・・ごめん。朝、マシューズベーカリーに行ったから・・・。」
「いいよ、別に。久しぶりに旧交を温めてきたんだろう? 食事くらいして来るよね。」
「・・・その言い方、なんか引っかかるぞ、マイル。」
「気のせいだよ。下で食べてくるから、待っててよ。」
マイルはすまして言い、部屋を出て行った。
「何だよあいつ・・・。まだこだわっているんじゃないか。」
アヴィンはぶつぶつ言いながら腰の剣をはずし、念入りに武器の手入れを始めた。

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