Fanfiction 二次創作|Junkkits

カヴァロ解放

day7-1

国際劇場の周りはいつもと変わらず、往来する市民はまばらで、見張りに付いている者ものんびりしていた。
だが、一歩劇場の中に入ると、いつになく厳しい監視の目があちこちで光っていた。
二階の片方の桟敷席に、デミール市長をはじめ街の主だった者が集まっていた。
アヴィンとマイル、それにスタンリーの三人は、劇場のロビーでパルマン隊の四人のボディーチェックをしていた。
「信じてくれるんじゃないのかよ?」
長身のグレイが愚痴をこぼした。
両腕を横に広げて突っ立っているのは、気分の良いものではなかった。
「よせよ、グレイ。一朝一夕で信用してもらえるものじゃないだろう。」
ロッコがグレイをたしなめた。
「万が一の事があっちゃならないからな。これも試練のうちだと思ってくれよ。」
スタンリーが言いにくいことをずばりと言った。
「よし、あんたはオーケーだ。」
入念なチェックを終えて、スタンリーはグレイの腕をぽんとたたいた。
「こちらも大丈夫。」
マイルがドルクのチェックを終えて言った。
「こっちも大丈夫だ。」
アヴィンがロッコとラテルのチェックを終えた。
「それじゃあ、案内しようか。」
マイルが一行の先頭になって、七人は二階へ上がっていった。

階段を上がったところで、メリトス女史とバルタザールが待っていた。
「マイル君、アヴィン君、ごくろうさま。」
「はじめまして。パルマン隊のロッコです・・」
ロッコが挨拶をしかけると、メリトス女史がにこやかな笑顔でさえぎった。
「皆の前で紹介しましょ。こちらへどうぞ。」
そう言って、さっさと奥へ歩いていく。
マイルとバルタザールはあっけに取られてメリトス女史を見送った。
「時間を無駄にしない人だね。」
「メリトスグループの総帥だからね。」
思わず顔を見合わせてしまう。
「おっといけない。」
マイルはハッとした。
「こちらへどうぞ。」
四人を促し、一向は皆の待つ桟敷席へ入っていった。

パルマン隊の四人が入っていくと、デミール市長は立ち上がって各々に握手を求めた。
「よく来てくれた。カヴァロ市民の代表として歓迎するよ。」
街の人々が次々に握手を求めるなか、アヴィンはデミール市長の後ろに控え、マイルとスタンリーは、階段へ続く通路の入り口に立った。
「ありがとうございます。」
歓迎が一段落すると、ロッコが頭を下げた。
きびきびとした動きが、いかにも軍人らしい。
「我々は、先日までカヴァロで沼地の調査をしていました。しかし、アリアさんを救出してからは、軍を離れ身を隠していました。ここへ戻ってきたのは隊長の命令です。パルマン隊長を信じて、手を携えて下さったカヴァロの皆さんを、今度は逆にお救いしたい。そのために戻ってきました。」
「訳あって隊長のパルマンは来られませんが、我々四人、ロッコ、グレイ、ドルク、それに私、ラテルがご協力させていただきます。」
一番若い、はつらつとした青年が言った。彼もまた、育ちのよさそうなさわやかな物腰であった。
「では、こちらも紹介しよう。私が市長のデミールだ。」
「メリトスグループのメリトスですわ。こちらはうちのグループの看板歌手のウェンディ。」
「ウェンディです。街の音楽家も協力して、ヌメロス兵に働きかけていますわ。」
「よろしく、歌姫さん。」
グレイがちゃっかり挨拶した。ウェンディは微笑を返した。
「バルタザールです。パルマン隊長の行動力には感服しました。皆さんの参加を嬉しく思います。」
「街の商工会をまとめているパン屋のマシューだ。人助けをする者に悪人はいないと思っておるよ。」
「ありがとうございます。」
ロッコが頬を紅潮させて一礼した。
「宿泊組合の者です。・・・一日も早い街の解放をお客様と共に願っております。」
「スタンリーだ。見張り役をしている。ここでどんな話が出たか、皆に伝えたくて聞きに来たんだ。」
「マイルです。そちらのアヴィンと一緒に、この街に雇われています。ヌメロス軍に対しては対策が行き詰まっているので、あなた方の提案には興味があります。」
「アヴィンだ。・・俺もこの街に雇われている傭兵だ。あんたたちが来てくれて心強いよ。」

「時間がないので、単刀直入にお話しましょう。」
紹介が終わると、ロッコが言った。皆が注目した。
「ヌメロス軍は今、木人兵の強化版を開発中です。それが完成したら、今度こそカヴァロを完全制圧しにかかります。」
「何と!」
ざわめきが起こった。
「それは確かな情報なのかね?」
デミール市長が尋ねた。
「数日前、この国のエキュルの街に軍勢が派遣されました。ご存知のように、精巧な人形細工の技がエキュルにあります。怪力に加えて、操作性の向上した木人兵が作られることは間違いありません。」
「そんな情報を一体どこから仕入れてくるんだ?」
スタンリーが聞いた。
「それは・・・。」
ロッコは即答を避け、デミール市長を見やった。
「スタンリー君、まずは一通り話を聞こうじゃないか。」
デミール市長はやんわりと言った。
「わかりました。」
スタンリーは引き下がった。

「木人兵が今以上に強くなったら、我々の力では到底太刀打ちできません。幸い、今なら木人兵はエキュルの部隊の方に行っています。今のうちにこの街を取り戻すことが、メルヘローズの、いえ、ヴェルトルーナ全体の平和につながります。」
ラテルが言った。
「言葉でいうのは簡単だけど、今まで睨み合い以上の接触をしていないのよ。こちらの戦力はお世辞にも十分とは言えないわ。あなたたち四人が加わったとしても、ヌメロス兵士を相手にするのは困難じゃないの?」
メリトス女史が言った。
「腕に覚えのある者だけでは不可能でしょう。」
ロッコが答えた。
「でも、ここの市民全員が起ち上がったらどうでしょう。ヌメロス兵よりずっと多い。兵士に与える動揺はかなりのものだと思いますよ。」
「貴方は、普通の市民まで戦いに狩り出すとおっしゃるの?」
ウェンディが突っかかった。
「戦うのではなく、行動を起こしてくれと言っているんです。理由は何でもいい。食料が底をついたとか、街に閉じ込められるのは限界だとか。何か理由をつけて、不満を炙り出してヌメロス兵にぶつけるんですよ。連中を、市庁舎の建物から引っ張り出してしまえば、あとは街の外へ追い出せばいい。」
「外へ追い出すと、他の村を襲ったりするんじゃありませんかね。」
宿泊組合長が言った。
「この辺り一帯の村にはもうヌメロス軍が入っています。半ば、統制下におかれているんですよ。」
ラテルが答えた。
「僕たちの調べたところでは、ヌメロス軍はボートを使って沼地を港代わりにしている。街の南へ追い出せば、海上へ逃げ出すと思います。」
「あなたたちは沼地でキャンプを張っていたんですものね。詳しいのは当然ね。」
メリトス女史がじっとラテルを見つめて言った。
「え、いや、そんなつもりでは・・・。」
ラテルが口ごもった。
「街の周囲についても、あちらこちらに出歩いていたのを知っていますよ。周辺の村にも行っているんじゃありませんか。」
マイルが冷ややかに言った。
「おい、マイル!」
思わずアヴィンは叫んでいた。
「僕は事実を言っているだけだよ、アヴィン。」
「・・・・・・。」
気まずい沈黙が流れた。
互いに相手の顔色をうかがうものの、話を切り出す者がいなかった。

「ヌメロス兵を市庁舎から誘い出し、そのまま、街の外へ追放する。そういう計画なんだね?」
デミール市長がロッコに確認した。
「はい、そうです。」
ロッコはホッとしたように答えた。
「俺たちだけで何とかなる作戦じゃねえ。あんたたちの街だ。あんたたちが本気にならなきゃ、出来る物も出来やしない。」
グレイが一同を睨むように言った。
「市庁舎から出たヌメロス兵が逃走するなんて、考えられないな。逆にこっちが追われて街を明け渡すことになりゃしないか?」
スタンリーが言った。ロッコが答えた。
「元の身内をこう言うのは辛いものだが、今来ている部隊の大半は素人同然だ。ゼノン司令とその側近だけだよ、軍人らしいのは。」
「一般兵は上が恐ろしいから従うだけだ。それも、自分の命が危ないと感じたら、どう転ぶか疑問だね。十分勝算があると踏んでいるんだがね。」
ドルクもスタンリーに言い返した。
「ヌメロス兵をパニックに陥れるつもりですか? そんなことが出来るのでしょうか?」
バルタザールが誰にともなく尋ねた。
「出来るさ。さっきから言ってるだろう。ここの市民が全員で集会でも開いてみろ。縮こまって逃げ出す輩が続出するぞ。」
「ヌメロス兵の実態は、わしも少しは見ている。」
パン屋のマシューズが口を開いた。
「毎日パンを届けに行っているからな。この人たちの言うとおり、やる気のない屑どもばかりだ。あいつらは自分の身内が木人兵をけしかけた事に気付いていながら、カヴァロを守ってるなんていう大義名分にしがみついてやがる。もしもわしらが起ち上がったら、本当に逃げ出すかもしれんよ。」
「でも、集会なんて危険だわ。もしもヌメロスが力でやめさせようとしたら、市民に被害が出てしまいますわ。」
「その前にあっちの兵士が逃げ出してるって。わからんお嬢さんだな。」
「ゼノン司令と側近はしっかりしているのでしょう? ヌメロス兵がパニックになるのは可能性のお話でしょう? 確実でないことに市民の皆さんを誘い出すのはいかがなものかしら。」
「ウェンディ、確実になるのを待っていたら、取り返しがつかなくなる事だってあるのよ。」
メリトス女史がウェンディを止めた。
「でも、社長・・・。私、市民の皆さんが危ない橋を渡るのは見ていられませんわ。」
「ウェンディ。僕たちがやってきたことにも限界はあると思うよ。もう一度攻め込まれるという危機が迫っているのなら、今はより早く解決できる行動を探し出すべきじゃないかな。」
バルタザールがウェンディに言った。
「あなたまで・・・。」
ウェンディはがっかりした様子で椅子に座り込んだ。

「大体の意見は出揃ったと思いますわ、市長。」
メリトス女史が言った。
「どうでしょう。今のまま睨み合いを続けても事態は進展しませんし、この人たちの言うように賭けに出てみては。」
「うむ、そうだな・・・」
デミール市長は腕を組んで考え込んだ。
「少し、待っていただけますか?」
マイルが、数歩前に出て言った。
「お前、また・・・。」
アヴィンが眉をしかめる。
マイルはちらっとアヴィンを見、それから皆を見回した。
「ウェンディさんの言うとおり、賭けに出たら普通の市民の皆さんにも危険が及ぶ可能性があります。だから、せめてこの計画に何の裏もないってことを、証明してもらいたいと思うんですが、どうでしょう。」
「俺は賛成だな。」
スタンリーが言った。
「私もよ。」
ウェンディが続いた。マイルは我が意を得たりとロッコに向き直った。
「あなたたちの持っている情報の信憑性を、僕たちにも納得させてください。」
「パルマン隊長の部下だったというのではダメですか。」
ロッコが聞いた。
「あれから何日も経っています。逃げていたそうだけれど、捕まって、寝返っていないと証明できますか?」
「マイル、いいかげんにしろよ! 疑いはじめたらきりがないじゃないか!」
「アヴィン。これは僕たちだけの問題じゃない。抵抗する力もない普通の市民の人たちを巻き込むことなんだ。もし万が一の時に、僕は後悔したくないからね。」
「う・・・・。」
マイルの言う事には十分説得力があった.アヴィンは黙り込むしかなかった。
「ロッコさん。何か証拠を持っていますか?」
マイルはロッコに迫った。

「マイル君、昨日ロッコ君が来た時、私宛にパルマン隊長の親書を持って来てくれたよ。」
デミール市長が静かに言った。
「それは確かに、この人たちにカヴァロ解放を命じたという手紙だった。」
「では、この人たちの情報源は? カヴァロへ来たばかりだと言うのに、エキュルの情報を押さえているのはどうしてですか?」
マイルは引き下がらなかった。
「それは・・・。」
ロッコは言いよどんだ。言うか言うまいか迷っている様子が伺えた。
「もう一通、さる方よりの手紙ももらっている。私はそれも信用しているよ。」
重ねてデミール市長が言った。
周りの皆は、しんとしてやり取りを聞いている。
「その人の名前は明かせないのですか?」
「その判断は、私には出来ないな。」
そう言って、デミール市長はロッコを見た。
「今はまだ・・・私にも、申し上げることは出来ないんです。」
ロッコが迷いながら答えた。
「では、この状態で、判断させていただくしかないんですね。」
マイルが冷静に断言すると、マシューがひょいと手を上げて立ち上がった。
「この人は、うそを言っている様には見えないがな。」
「パルマン隊長はいい方だったわ。彼の部下であるこの人たちが、そうそう悪いことに加担するとは思えないのだけど。」
メリトス女史も言った。
「迷っている間に取り返しがつかなくなるなんて、俺たちを焦らせるやり口かもしれないじゃないか。踊らせられるのはごめんだな。」
スタンリーが言った。
「マイル、あんたはどうなんだい?」
「僕はまだ判断できる状況じゃないと思っている。正しいとも、そうでないとも言い切れない。」
マイルが言うとスタンリーはうんうんとうなづいた。
「じゃあ、アヴィン。あんたはどうだい?」
「俺は・・・、俺はこの人たちを信じたい。考える事に時間を費やして、対策が遅れることが心配だ。もしも、もう一回襲撃を受けたら、この街は持たない。・・・そう思う。」
「ふーん・・・あんたらしいな。二人で意見が食い違うこともあるんだな。」
スタンリーが言った。
アヴィンはマイルを見やった。
マイルはパルマン隊の四人を厳しい目で観察していて、アヴィンの視線には気が付かなかった。
「市長さん。今ここで決定するのは早すぎませんか? 仮にも一般市民の方たちを動員するとなれば、一歩間違えただけで街じゅうがパニックになります。・・・それが狙いだったら大変なことです。」
マイルが言った。反対を唱えるものはいなかった。
「信用してもらえませんか、マイルさん。」
ロッコがマイルに尋ねた。
「今はまだ、信用できません。納得できるだけのものを、見せてください。」
ロッコは仲間を見た。グレイは肩をすくめた。ラテルは困った顔でロッコを見返した。
「出直した方が良いんじゃねえか?」
ドルクだけが口に出して言った。
ロッコは額にしわを寄せて考えていたが、覚悟を決めた様子で顔を上げた。
「わかりました。我々の情報提供者に話をしてみます。なるべく早く返事をもらって、報告に来ます。ですから、皆さんも考えておいてください。ヌメロス兵をパニックに落とす方法を。」
「承知した。マイル君それで良いな。」
デミール市長が言った。
「はい。異存ありません。」
マイルが答えた。
「ではロッコ君、ご足労だが君たちの仕事に取り掛かってくれるかな。承諾が取れたらいつでもここへ連絡をよこしてくれ。話し合いの続きをしよう。」
「ありがとうございます。では、失礼します。皆さん、いずれまた。」
四人は階下へ降りていった。
マイルとスタンリーの二人が付いて行った。

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