Fanfiction 二次創作|Junkkits

カヴァロ解放

day7-3

「ごめん、遅くなって。」
マイルとアヴィンは屋上から降りてスタンリーたちと合流した。
「ゆっくりしてきても良かったんだぜ?」
スタンリーが二人を見て皮肉っぽく言った。
マイルはその声を聞いてはっとした。
『僕たちのこと、疑われているみたいだな…。』
スタンリーの周りにいる他の街の人たちも、あまり良い顔をしていない。自分たちは、かなりまずい事をしてしまったとマイルは思った。
「すまないな、任せきりにして。俺たちも見張りに付くよ。」
回りの様子に気づかなかったらしく、アヴィンがいつも通りの口調で言った。
「いや、待ってくれ。」
スタンリーが言った。
「あんたたちはこれまで一日も休みなしに見張りに立ってくれた。ここらで少し体を休めたらどうだろう?」
「えっ?」
アヴィンが思いがけない言葉に棒立ちになった。いくらアヴィンでも、スタンリーの言葉をそのまま受け取ることは出来なかった。
マイルは、アヴィンが抗議するのではないかとヒヤッとしたが、アヴィンはショックが強すぎて動けないようだ。
それならばと、マイルはアヴィンの腕にそっと触れて言った。
「そうだよ、アヴィン。少し休ませてもらったら?」
「お、おい、マイルまでそんな事…。」
アヴィンは困惑顔で言った。
「マイルさんも休んでくれて良いんだぜ?」
スタンリーは言った。
「ううん、それじゃあ申し訳なさ過ぎるからね。僕とアヴィンは交代で休みをもらうことにするよ。構わないでしょ?」
スタンリーたちは顔を見合わせた。
「俺はその方が良いと思うな。どちらか片方にいてもらえば心強い。」
トムソンが言った。
「でも、なぁ。」
街の人たちがてんでに勝手な事を言いだす。
『そうか、まだ意見が一致したわけじゃないんだ。』
トムソンの言葉を聞いて、マイルは安心した。
一緒に街の外へ出たトムソンは、マイルの人柄を見ているはずだ。
どんな時でも、人の信頼を損ねるような行為だけはしてこなかった自信が、マイルにはあった。
トムソンが信じてくれれば、ほかの街の人の信頼も損ねなくて済むかもしれない。
「とりあえず、裏手の見張りが手薄なようだから、僕が行くよ。誰かもう一人一緒に来てくれるかな?」
マイルは街の人を見渡した。
「わしが行こう。」
商店主だろうか、肉付きの良い男がすかさず手を挙げた。
「おい、マイルっ!」
アヴィンが情けない声を出した。
「休ませてもらいなよ、アヴィン。次にいつ休めるかわからないだろう?」
マイルが言うと、アヴィンはしぶしぶうなずいた。

「ふう。簡単に進まないもんだな。」
一見普通の家に見える隠れ家で、ロッコは仲間にこぼした。
「マイルって言ったっけ?あの金髪の奴。いい事言うよな。俺だってあのくらい言いたいぜ。こんなホラ話みたいな事を信じろっていうんだからさ。」
ドルクが言った。ロッコが眉を寄せて言い返した。
「木人兵の事はホラじゃない。」
「駐在大使が俺たちを裏切っていなければな。」
「ドルクさんはそんな事まで疑ってかかっているんですか?」
二人のやり取りを聞いていたラテルが聞いた。
「俺が信じられるのはパルマン隊長だけだね。しかし、あれは良い意見かもしれないが、逆効果だったかもしれんな。」
「せっかくまとまりそうだった意見を白紙に戻しちまった。連中が一本にまとまるかどうか怪しくなったぞ。」
グレイが言った。
「そうだな。だが、俺たちにも時間はない。長居するほど、駐屯軍の連中に感づかれる。なるべく早く一気に事を起こすしかない。」
ロッコが考えながら言った。
「何かで一つにまとまってくれんと、一般人は扱いにくいぞ。」
グレイが腕を組んだ。
「まとまらん限り、鵜合の衆だからな。」
「それは食料問題で解決するはずだ。おそらく、もう数日分の貯えしかないはずだ。街の人がそれを知れば、団結するだろう。」
ロッコが言った。
「しかし、のんびりしたカヴァロの連中が、一斉蜂起するかねぇ。逆に不安を煽られて、パニックを起こすかも知れないぜ。」
ドルクのいう事は、いちいち図星なのだが、他の仲間をいらいらさせる事でもこの上なかった。
「そこを何とかするのが僕たちの役目じゃないですか。兵隊をたじろがせるような底力が出てくれば、市庁舎の連中は浮き足立つに決まっています。」
ラテルが言った。
「ゼノン司令が睨みを効かすのと、街の人間が蜂起するのと、どっちが怖いかだな。」
ドルクの言葉に会話が途切れる。四人にとって一番の心配はそこだった。
ヌメロス兵が、自分たちの身内の恐怖の方が恐ろしくて、カヴァロ市民に対して逃げ腰にならない事。
そうなったら、街は完全に統制下に置かれてしまうだろう。
「ゼノン司令が街を離れてくれりゃ、好都合なんだがな。」
「それは、大使に教えていただくしかないな。」
ロッコが言った。
「木人兵の改造も、どうなったか知りたいもんだ。ハッキリした情報があれば、この街の連中は決断を下せそうだからな。」
グレイも考えながら言った。
「大使館へ、伝言を出しておきましょうか。」
二人の顔を見て、ラテルが言った。
「いや、情報源を明らかにしてよいかどうか伺わねばならん。俺が行くよ。」
ロッコは言った。

「さて、俺はちょっと出てくる。」
ドルクが立ち上がった。
「どこへ行くんだ。むやみにうろつかない方が良いぞ、ドルク。」
グレイがドルクを見上げて言った。
「野暮用だよ。すぐに戻る。」
ドルクは片手をちょっと振って出て行った。
三人はしばし沈黙した。
「あいつ、何か隠していやがるな。」
グレイが言った。
「俺たちにも話さないところをみると、個人的な事なんだろう。」
ロッコも言った。ラテルが驚いて二人を見た。
「な、何なんですかそれ。僕は全然気付きませんでした。」
「育ちのいい奴にはわからないんだねえ。」
グレイが皮肉る。
「国の外へ出て、相当こなれたつもりなんですがね!」
ラテルはむっとして答えた。ロッコが二人の間に割って入った。
「まあまあ。ドルク自身、俺たちが気付いているのはわかっているだろう。彼を信じてやりたいが、それは隠し事をしない場合のことだ。ドルクの行動には不明な点があるし、理由も説明しない。その事実は肝に銘じておかなくちゃいけない。」
「何をしに行ったか、追いかけたらいいじゃないですか。」
ラテルが言った。
「だからお前は育ちがいいって言うんだ。何でも暴きゃ良いってもんじゃないだろう。」
「グレイさんは理由を知っているんですか?」
「知らねえよ。でもな、ドルクって奴の事はずいぶんわかっているつもりだぜ。口が悪くて態度も悪くて、そっけないしな、付き合いやすい奴じゃないさ。」
「似た者同士ですよね。」
「お前なあ…。」
グレイがラテルを睨む。ロッコは後ろで笑いをかみ殺していた。
「でも、あいつは自分が軍に送り出された理由はちゃんとわかっているんだ。」
「へえ?」
ラテルが応酬する。
「ドルクが自分の村に、稼ぎのかなりの分を仕送りしてるのは知ってるか?」
「え、いえ知りません。」
ラテルは真顔になった。
「本国を離れる時、奴は給金を村に届けるように誰かに頼んでいるんだ。毎月仕送り出来なきゃ、村が困るからな。…だが、こんなところにいちゃあ、ちゃんと給金が出ているかどうかもわかりゃしねえ。奴が不機嫌なのは、仕送りがちゃんと送られているかどうかの心配だぜ。でなきゃ、給金がなくても一定の額を村に送るように手配してあって、借金がたまり放題なのを心配しているか、どっちかだ。」
「そんな事、どうやって調べたんですか…。」
グレイのよどみない説明に、ラテルはすっかり感心していた。
「だから金の心配をした事のない奴は困るんだよ。地方から軍に入隊する奴らの目的は、まず第一に金稼ぎなんだぜ。村だって、働き盛りの若者を手放すんだ。見返りを期待するのは当たり前だ。なあ、ロッコ。」
「はは、お互いさまだな。」
ロッコは笑った。
「そんなの知らなかったですよ。」
ラテルが嘆いた。
「それじゃあ、僕は兵隊としては二流なんでしょうね。」
「お前が入隊した目的が金じゃないのは知っているさ。ここも大切な目的だと思うぜ。」
グレイはぽんと胸を叩いた。
「そうとも。隊長が決意を固められて、ラテルにとってもこれからが正念場じゃないか。まずはここで、ゼノン司令の出鼻をくじいてやろうぜ。」
ロッコも言った。
「ありがとう、グレイ、ロッコ。」
ラテルは頬を紅潮させて言った。
「ドルクの事は、俺の想像だ。でも、金貸しに融通を頼んで首が回らなくなった奴は実際に大勢いるんだ。覚えときな。」
グレイが言った。
「わかりました。でも、金貸しは本国にいるんでしょう? 今出て行ったのとはどういう関係があるんですか?」
「そ、それはだなあ。うーん、…わからん。」
グレイはぼりぼりと頭を掻いた。
「そんな所だろうと思いましたよ。」
ラテルが肩をすくめて笑った。


「テオドラ、聞いてくださる?」
ウェンディは、国際劇場を出た足で音楽家の集まるサロンに向かった。そして、見知った顔を見つけると、まっすぐに歩み寄った。
「どうしたの?そんな怖い顔をして。」
テオドラは向かいの席にウェンディを招くと、興味深そうに尋ねた。
「バルタザールもメリトス社長も、ひどいのよ。ヌメロスを裏切った兵士にすっかり同調してしまったの。」
「まあ。ホント?」
テオドラは声を落とした。
「市民に集まってもらって騒ぎを起こそうって提案したのよ!そんなひどいやり方があると思って?」
ウェンディは同業者の集まる気安さで、感情を表に出していた。
「あまり大きな声を出さないほうが良いわよ。紅茶でも召し上がる?」
テオドラは周りを気遣ってやんわりとたしなめた。
「いいえ、結構よ。」
ウェンディはまだ言い足りない風で、口を尖らせた。
「あなたの気休めになるお菓子でもあったら良いのだけど。ここには何にもないんですって。だんだん色々な物が無くなってきているわね。」
「仕方がないわ。遠くからの貿易品は止まってしまったのでしょ。近くの村から入ってくるのは毎日の食料ですもの。」
「そうね。」
テオドラはウェンディをまじまじと見、それから軽いため息と共に目を伏せた。
「今は街の人たちも冷静でいられるけど、これから状況が変わっていったら安全でなくなるかもしれないわね。」
「テオドラもそう思うの?」
ウェンディがテオドラの顔を覗き込んだ。その顔には失望したような表情が浮かんでいる。
「だって、食べるものが満足になくなったら、死活問題だもの。ちょうど『星屑のカンタータ』の公演前で、宿屋にはお客様がいっぱいいたから、その人たちの食料も必要なのよ。この頃は保存食もお店に並んでいるって聞いたし、どこかでしまい込んでいた物を売り出しているのかもしれないわ。」
テオドラが言うと、ウェンディはがっかりした様子で椅子にもたれて天井を見上げた。

「私たちのしている事は何の役にも立たないのかしら…。」
ウェンディがぽつりと言った。
「!!」
テオドラはびっくりしてウェンディを見た。
天井に視線を向けて口元を引きしぼっている様子は、まるで涙をこぼすまいとしているように見えた。
「そんなはずないわよ。」
テオドラは語気を強めてウェンディを励まそうとした。
「そりゃ、最初に予想していたよりもカヴァロの人がたくさん聞きに来てくれるけど、ちゃんとヌメロスの兵士もお店に来るじゃない。私たちの演奏は、きっと故郷を思い出させているわよ。」
「でも、兵士は兵士なのだと言うの…。命令があれば、自分の気持ちを殺して任務を遂行するのですって。」
「そんな事、誰が言ったの?!」
「メリトス社長よ。」
ウェンディは少し赤くなった目をテオドラに向けて、ひどいでしょ、というように肩をすくめた。
「私、もっと理解してくださっていると思っていたのよ。…なんだか違ったみたい。」

「演奏会は、どうするの?」
ややあってテオドラが聞いた。
「続けるわ。」
ウェンディはきっぱりと言った。
「お客様がたった一人になっても、私は歌うわ。ヌメロスの人たちに故郷をお見せしたいわ。」
「その意気よ、ウェンディ。今日からはアルトス君があなたと組むのよね。」
「あら…、そうだったわ。本番前に一度合わせておかなくては。ありがとう、テオドラ。」
「どういたしまして。音楽家の意地で頑張りましょ。」

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