Fanfiction 二次創作|Junkkits

カヴァロ解放

day8-2

「閣下、ネクロス様より伝令が参りました。」
エキュルからの第一報がゼノン司令の元に届いたのは、その日の午前中のことだった。
司令は本国から届いた書類を読んでいたが、待っていたという顔で伝令を迎えた。
「話せ。」
ゼノン司令は素っ気なく命じた。
「ご報告申し上げます。ネクロス・ブレガー両名によるエキュル襲撃隊は、人形細工師の拉致には至りませんでしたが、最新型人形一体を入手、直ちに本国へ急送いたしました。なお、ブレガー大使は木人兵の改良に専念するべく、人形と共にメルヘローズを離れました。」
伝令が緊張して報告するのを聞きながら、ゼノン司令はにこりともしなかった。
「ネクロスはどうしておる?」
伝令の報告が終わるとゼノン司令は尋ねた。
「は。艦隊旗艦にて、次のご命令をお待ちしております。」
「ふん、いい身分だな。」
ゼノン司令はひとりごちた。
「ネクロスに伝えよ。全兵力を伴ってカヴァロ沖へ迎えに来いとな。」
「はい!」
伝令は全身を緊張させて答えた。
「旗艦は今どこだ?」
「ジラフに停泊しております!」
「3日で来れるか?」
「ぜ、全力を尽くして間に合わせます!」
伝令が顔から汗を噴き出した。冷や汗だった。帰り道も休みなく走り続けなくては、要求に間に合いはしない。
「よし、行け。」
ゼノン司令は顎をしゃくった。
伝令は転がるように部屋を出ていった。
ゼノン司令は再び手に持った書類に目を落とした。
「歌姫の挽回をするには、これを手に入れるしかないという事か・・・。」
いまいましそうな表情がゼノン司令の横顔に現われた。だが、それはほんの一瞬の事だった。ゼノン司令は、先程からずっと控えていた本国の伝令に言った。
「皇帝陛下にお返事をしたためる。しばらく待っておれ。」
「はっ!」


国際劇場の二階で、再び会議が開かれた。
「皆さん、新しい情報が二点あります。」
ロッコが切り出した。
「聞かせてくれ。」
デミール市長が促した。ロッコは頷いた。
「先程エキュルから伝令が着きました。ヌメロス軍が人形を一体手中に収め、ヌメロス本国へ送ったというものです。」
「おお。」
人々がざわっと動揺した。木人兵が強化されるという不安が、現実になるかもしれないのだ。特にカヴァロの市民たちは表情を引き締めた。
「それと、昨日のご質問の件ですが。」
ロッコはマイルを見て言った。マイルは思わず背を伸ばした。
「どうか、他言無用に願いたいが、我々の後ろ盾になっているのはヌメロスの在カヴァロ大使館です。」
「ええっ。」
ざわめきが一層大きくなった。マイルも思わずアヴィンと顔を見合わせた。
「国が二分しているっていう事なのか?」
アヴィンが小声でマイルに聞いた。
「はっきり対立してる訳じゃないと思うよ。それは、これからの事なんじゃないかな。」
マイルは答えた。
「我が祖国は、今の軍政を望んで受け入れたわけではないのです!国には、王政を取り戻そうという同志が大勢いるんです。」
四人の中で一番若いラテルが、頬を紅潮させて言った。
「でも、ラウゼン皇帝が立つときに前の王族は全て・・・。」
メリトス女史が言いかけ、ハッとしてロッコたちを見た。四人は何も答えなかった。
メリトスは市長と視線を合わせた。デミール市長が余裕顔でうなづくと、メリトス女史は得心したとばかりに微笑んだ。
「・・・そう。あなた達の信憑性はわかったわ。マイル君、どう?」
「はい、重大な決断をしていただいて嬉しく思います。これで僕も、あなた達を信頼できる。」
マイルが四人を見て言った。
「ありがとう。」
ロッコが表情をゆるめた。

「さーて、意見の一致をみたところで、俺たちの持ち時間も限られてきたんだ。具体的な話を煮詰めようじゃないか。」
グレイが大きな声を張り上げた。
「ヌメロスはどのくらいで新しい木人兵を作り上げるんだ?」
スタンリーが聞いた。
「そこまではわからないな。だが、エキュルにいる木人兵がここへ戻ってくる日数ならせいぜい3・4日だ。」
ドルクが言った。カヴァロの人たちにさっと険しさが走った。
「あらためて昨日の提案を検討していただきたい。皆さんで、市庁舎から、カヴァロからヌメロス軍を追い出しましょう。」
ロッコが室内を見渡しながら言った。
「私からも、意見をさせていただきたい。」
デミール市長が片手をあげて立ち上がった。
「昨日この人たちの提案を聞いて、皆もいろいろ考えたと思う。私も、市政を預かる者としてどうすれば良いか考えた。だが、何よりも事実を受け入れなくてはならないことがあります。」
皆がデミール市長に注目した。
「皆さん、カヴァロの蓄えはあと数日分しかありません。」
「!!」
声にならない衝撃が部屋を包んだ。
「毎日食料が届いていますが、ヌメロスの検閲があるために入荷は先細っています。この事を、どうか念頭に置いて考えて欲しい。」
「食糧事情が切羽詰まっているなら、一刻も早いほうがいい。」
ドルクが言った。
「そんなことを言って、街の人を危険にさらそうと言うの?」
ウェンディが立ち上がった。
「またお嬢さんかい。」
グレイが隣にしか聞こえない声でぼそっと言った。ドルクが肩をすくめた。
「元気がよくっていいじゃねえか。」
「俺はあんなじゃじゃ馬好みじゃないな。」
「二人共、こんな時に何を言ってるんですか!」
ラテルが血相を変えて止めに入った。
ロッコは仲間の内輪話には加わらず、眉を寄せてウェンディに話し掛けた。
「街の人を安全に守りたい気持ちはわかる。・・・わかっているつもりです。でも、広い目で見てください。このままカヴァロがヌメロスの手に落ちたら、いずれメルヘローズ全体もヌメロスの属国になってしまう。そして、この国の豊かさを手に入れたヌメロスが次に望むのは何でしょう?・・・世界征服の野望に決まっています。」
ウェンディから部屋に集まった人たち全体へ視線を移しながら、ロッコが言った。
「この街の人の踏ん張りで、悪夢の連鎖が途切れるんです。かつて、我々が国の中で止めることの出来なかった暴走を、よその国の方に止めていただくのは心苦しい限りですが・・・。でも、どうか、立ち上がってください。我々も命を賭けてお供します。」
「俺もロッコたちの意見に賛成だ。ヌメロスの息の下で生きていくのも選択かもしれない。だが、自分の意志で生きる道を選ぶのが本当の自由なんだと思う。俺も精一杯手伝う。」
続けてアヴィンが言った。マイルは一瞬止めたそうな顔をしたが、アヴィンの真剣な表情を見て軽く首を振った。
自分の意志で未来を決める。
アヴィンがこの信念を曲げることなんてあるはずがなかった。

「威勢のいいことだな。」
皮肉っぽくスタンリーが言った。
「街の人間の意見もないうちに、あれこれ言ってもらいたくないな。」
「う・・。」
アヴィンが唇を噛みしめた。
「あら、それならスタンリーさんはどういう意見なのかしら?」
メリトス女史が尋ねた。
「え、そりゃ、俺だってヌメロスの連中は追い出したい。・・・けど、街の人の意見を大事にして欲しいですよ。」
スタンリーはそう答えた。
「我々の街ですからな。」
デミール市長がにこやかに言った。
さりげなく庇われたことに気付き、アヴィンは市長を見やった。
デミール市長もメリトス女史も、顔は微笑みを浮かべていたが眼差しは真剣だった。今、ここで意見を分裂させたくないという必死な思いが感じられた。
「それに、お宿には遠来のお客様も数多くいらっしゃいます。」
宿泊組合長が言った。守らなくてはならない人達の事を忘れないで欲しいと控えめな言葉が語っていた。
「私の意見を言わせてもらって良いかしら?」
メリトス女史が言った。
「日頃興行を手掛けていて、人間の心理というものが少しはわかっているつもりなのだけど、この数日が、やはり私達にとって良いチャンスだと思うの。」
メリトス女史は皆を見渡した。ウェンディが思い詰めた顔をしているのが目に入った。
「ヌメロス軍は木人兵をエキュルに置いているのでしょう?私たちが立ち上がったとき障害になるのは、市庁舎に籠もっている兵士だけだわ。今回を逃したら、私たちは食料との戦いに奔走しなくてはならなくなるし、時がたつにつれて不利になるわ。」
「食料がなくなることなんか知ったら、大騒ぎになるんじゃないか?」
スタンリーが疑問を差し挟んだ。
街の人たちは互いの顔を見合わせるばかりだった。
ドルクが口を切った。
「日常生活に不安が起こると、人は簡単にパニック状態になる。それが大事な食料のこととなればなおさらだ。」
ドルクの言葉に、皆が注目した。
「自然にうわさが広がるってパニックが起こる前に、街の人を集めて食糧の備蓄がなくなったことを告げるんだ。当然大騒ぎになる。誰もが冷静さを失うだろう。だがその時に、憤りをヌメロスに向けることが出来れば、とてつもない力になるんだ。」
「どうやって皆を押さえるのかね?」
デミール市長が聞いた。
「市庁舎前の広場で集会を開けば、自然と怒りの矛先はヌメロス兵士に向かうだろう。もちろん危険な小競り合いの起こる先陣には俺たちが付くつもりだ。」
グレイが言った。
「もしヌメロス兵が攻撃してきたらどうするんですか!あなた達だけで街の人を守ってくださるの?」
「ウェンディ、およしなさい。」
メリトス女史が止めようとした。
「どうして止めるの?どうしてわかってくださらないの?」
ウェンディは頬を紅潮させて声を張り上げた。
隣で成り行きを見守っていたバルタザールが、小声でウェンディにささやいた。
「カヴァロの男だって、闘うときにはちゃんと立ち上がるよ。指揮してくれる人があるんだ、そんなに不安に思うことはないよ。」
「・・・・・私は、いやですわ!」
ウェンディはいたたまれない様子で、部屋を飛び出していった。
「ウェンディ!」
メリトス女史が後を追って走り出ていった。


「問題になるのはゼノン司令が市庁舎に駐在していることでしょうな。」
ウェンディの行動に皆が呆気にとられている中、デミール市長は眉間にしわを寄せて決起の可能性を探っていた。
「確かにおっしゃるとおりです。」
ロッコが答えた。
「カヴァロに駐在しているのは全部で約40名。そのうち、ゼノン司令の本部隊が4.5名です。もっとも本部隊といっても、この遠征に当たって編成された部隊です。年季の入った兵士は彼らだけです。一般兵に至っては今回強制的にかり集められたヌメロスの一般人です。」
「そんなことまで調べてあるのか。」
スタンリーが言った。ロッコは頷いた。
「内側にいたときでさえ、祖国の政治方針は疑問に感じるものでした。今となっては・・・。彼らもきっと、戦いたくてカヴァロいるのではないはずです。投降を呼びかければ反応があるでしょう。」
ロッコは淡々と答えた。
「しかし、ゼノン司令があくまで戦えと命じれば、事態は予断を許さない可能性がある。そうだね?」
デミール市長が尋ねた。
「ええ。」
ロッコは市長の懸念を認めた。
「どうだろう諸君。我々はどの道を選ぶにしても、いくつかの障害を持つことになる。決起を決めれば、ゼノン司令の存在が事の成否に関わってくる。黙して堪え忍ぶことを選べば、遠からず飢えが忍び寄ってくるだろう。我々は、カヴァロは、どちらを選ぶべきだろう。」

「おい、マイル。」
小声でアヴィンがマイルを呼んだ。
「なんだい?」
デミール市長の発言に耳を傾けていたマイルは、アヴィンに腕を突っつかれて初めて振り返った。
「ゼノン司令って、国際劇場で見かけた将軍だよな。」
「そうだよ。・・・何を考えているんだい?」
マイルはアヴィンが目を輝かせているのを見てくぎを差した。
「い、いや、別に。・・・戦いになったときに相手がわかるのかなって思っただけだ。」
「先頭に立って飛び込んでいくつもりなんだろう?だめだよ、アヴィン。」
マイルは声を潜めた。
「一番大切なことを忘れちゃいけないよ。」
アヴィンの目をじっと見つめる。
「あ、ああ。わかってる。」
アヴィンがちょっとばかり残念そうに答えた。

「僕はこのチャンスを生かすべきだと思います。ウェンディのような反対意見もあるでしょうけれど、僕はカヴァロの自由を守り通したい。」
バルタザールが言った。
「私も、飢える苦しみを味わうくらいならば・・。お客様たちには、安全なところへ避難していただいて、街の者が立ち上がるのが良いかと思います。」
宿泊組合長が言った。
「俺も、カヴァロを取り返したい。このまま木人兵に襲われるのを待つのはごめんだ。」
スタンリーが言った。
「そうか。決まり、だな?」
ドルクが言った。
部屋はいつの間にかしんと静まり返っていた。
「マイルさんたちはどうですか?」
ロッコが尋ねた。
「僕たちは皆さんの決定に従います。今はカヴァロと一心同体ですからね。」
マイルはそう答えた。
「こんな大事だ。傭兵の契約は反古にしたっていいんだよ。」
デミール市長が言った。
「いいえ。ぜひご一緒させてください。」
マイルは答えた。
「俺も、一緒に戦います。」
アヴィンも言った。
「そうか、ありがとう。」
デミール市長は嬉しそうに言った。
そして、真剣な表情でロッコたちに向き直った。
「聞いての通りだ。カヴァロの市長として、改めて君たちに助力をお願いしたい。一緒に立ち上がってくれるかね。」
ロッコの顔がさっと紅潮した。
「もちろんです。ありがとうございます!これで我々も、長年の宿願に一歩踏み出すことが出来ます。一緒に頑張りましょう!」

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