Fanfiction 二次創作|Junkkits

カヴァロ解放

day9-3

その夜、ウェンディは自分の公演が終わるとさっさと酒場を後にして帰っていった。
「残らないの?」
客席にいたレイチェルが声を掛けたが、ウェンディは黙って首を振った。
「そう…。」
レイチェルは不満そうな顔をしたが、ウェンディを引き止めはしなかった。
やがて、客の間を回っていたバーテンが店の扉を閉めた。
「アヴィン、マイル、すまないが出入り口を見ていてもらえるかな。」
バーテンは言った。
「いいとも。」
即答で引き受けて、二人はそれぞれ両側の出入り口の前に陣取った。

「皆さん、よく集まってくれました。」
ステージにデミール市長が立って、集まった人々に話し掛けた。
ざっと20名余。
いずれもすっかり見慣れた顔ぶれだった。
「これが最後の打ち合わせになろうかと思います。ヌメロスに気付かれないうちに計画を練り上げましょう。」
「いよいよですわね。」
メリトス女史が緊張した様子で言った。
「食料在庫ですけど、当日の分までは確保できましたわ。そのあとは各々の保存分だけが頼りです。だから、なるべく短時間で終わって欲しい。そう願っています。」
街の人々が確認するように頷いた。
「では明後日のことですが、朝食の時間を過ぎたら、私たち市の職員が手分けをして市民の皆さんを中央広場へ呼び出します。」
デミール市長の秘書が、紙に書き記した計画を読み上げた。
「大体集合したところで、デミール市長より食糧事情のこと、これ以上ヌメロス軍の管理下に置かれてはならないことを発表していただきます。」
「ほう、一応考えたんだな。」
アヴィンから少し離れたテーブルで、グレイがつぶやいた。
「それで、ですね。」
秘書官は視線を室内にさまよわせた。
その視線が、ロッコたちのテーブルで止まる。
「私どもに出来る事はここまでです。市民の怒りを、どうヌメロスの兵士たちに向けるのか、もし彼らが反撃したらどのように行動するのか。素人の私たちには想像する事も出来ません。ですから、この先の計画をパルマン隊の皆さんに一任したい。これはデミール市長の意思でございます。」
室内の視線がロッコたちに集まった。
四人は顔を見合わせ、それからロッコが立ち上がった。
「我々も一応の計画は立ててきました。お任せくださるなら、それをお話します。」
「どうだろう、諸君。ここはこの人たちにお任せしたいと思うのだが。」
デミール市長が呼びかけた。
「賛成だ。」
見張り仲間の男が手を挙げて言った。
「俺も賛成だ。この人たちのおかげで進んだ計画だ。当日の指揮も取ってもらいたい。」
同じテーブルにいたトムソンが言った。
「俺も異存はない。」
スタンリーが言った。
他の市民たちも異口同音に賛成を述べた。
「特に反対意見も出ないようだ。ではロッコ君、お願いするよ。」
「わかりました。」
ロッコは頬を紅潮させて答えた。


「じゃあ、俺たちの考えてきた手順を話します。」
ロッコが立ち上がって言った。
「市民の方たちが広場へ集まりはじめたら、東と西の出入口を押さえます。街の入口を封鎖している兵士を拘束するためです。」
「南口は押さえなくていいのか?」
スタンリーが聞いた。
「最終的にはヌメロス兵を南の沼地へ追い込みたいんだ。奴らの退路として、南口は残しておくつもりだ。」
ロッコが答えた。スタンリーがわかったという風に相槌を打った。
「市庁舎前の橋には、腕のある者を集めてヌメロス兵が展開するのを押さえます。これは俺たちが中心になって引き受けます。ここは何人でも手伝って欲しい場所です。」
「市民が暴動にならないように抑える役も頼みたいしな。」
グレイが言い足した。

「私も市庁舎前へ行くべきだろう。」
デミール市長が言った。
「可能ならば、もう一度ゼノン司令と話し合いをしてみたい。」
しかし、デミール市長の意気込みは、そこにいる殆どの参加者から否定されてしまった。
「耳を貸す輩には見えませんわ。市長が危険な橋を渡る必要は無いと思います。」
メリトス女史が強い口調で言った。
「そうですよ、市長。ここは慎重に行動なさってください。」
秘書官も懇願した。
「むう。皆、私が建物の奥で守られているべきだと思うのかね?」
デミール市長は悔しそうに口を曲げた。
「市長さんには、市民の方たちが集まったところで時の声を上げてもらいたいです。大事なお立場ですから、それまでは我慢して安全な所に居て頂きたいです。」
ラテルが言うとデミール市長の目元が、わずかにほころんだ。
「ふむ。そう言われればその通りだね。」
「当面の衝突が避けられたら、市庁舎を明け渡すように要求する事になります。話し合いはその時に検討しても遅くないです。」
ロッコが言葉をつなげる。
「…そういうことなら、致し方ないかな。」
デミール市長は機嫌を直した。
「ヌメロスの目の前で時の声を上げるのもいいかもしれないね。うん、武者震いしてしまうよ。」
「演説されるのは、市庁舎前ではヌメロス軍に近すぎますから、国際劇場の裏手はどうでしょう。南の出入口からは死角ですし、いざとなったら建物に非難しやすいです。」
秘書官が冷や汗を流しながら提案した。
「それが良いですわ。関係者用の非常口を使えば、国際劇場への出入りも安全ですわよ。」
メリトス女史が駄目押しをした。
「…そうかね。」
華々しい活躍の場を奪われて、デミール市長は落胆した。が、さすがに時と場所を意識して、それを表情に表わす事はなかった。

「さっき言ってた市庁舎前の橋を守る役目だが、手伝わせてくれないか。俺たちは猟師だ。剣やナイフは扱い慣れている。役に立てると思う。ヌメロスの奴らが邪魔しないように壁になりたい。」
トムソンが立ち上がって言った。
同じテーブルの男たちも一緒に立ち上がった。
「大歓迎だ。」
グレイが言った。
「俺たちからは、向こうと交渉する事も考えて、口の達者なロッコとラテルを市庁舎前に置く予定なんだ。腕っ節の方を任せられる助っ人は大助かりだ。」
「市民の皆さんを安全な場所に誘導するお手伝いは、市庁舎の職員も総力でお手伝いいたしますぞ。」
デミール市長が言った。
「ありがとうございます。連絡を密に取り合えるよう伝言役を決めておきましょう。その場になってからの判断が多くなりますからね。」
ロッコが言った。
「これで市庁舎の方は人数も十分ですね。それじゃあ、出入り口を奪還する別働隊の方に移ろう。」

「俺とドルクと、もう何人か腕利きが欲しいな。」
グレイが部屋を見渡した。
「僕とアヴィンを頭数に入れて欲しいな。」
マイルが言った。
「いや、マイルは市庁舎前の高架水路の上がいい。」
アヴィンが言った。
「えっ?!」
マイルはびっくりしてアヴィンを見つめた。
「ブーメランは高い所に陣取った方が戦況を見やすいだろ。それに、回復魔法も効果的に使えるだろう。」
「でも、それじゃアヴィンは?」
マイルが納得できないという口調で言い返した。
「お前、本っ当に俺を信用してないな?」
「信用はしてる。でも心配なだけ。」
マイルは澄まして言った。どこからか失笑が漏れた。
「ちぇっ…。」
アヴィンの目が近くにいた二人連れの前で止まった。
「シャオさん、レイチェル、俺と組まないか?」
アヴィンに言われて、レイチェルはびっくりして言い返した。
「私、ナイフ使いよ。大丈夫?」
即席でコンビを組むには難しいとレイチェルは言った。
「心配ない、慣れてる。」
自信たっぷりにアヴィンが言った。
マイルが大げさにため息をついて見せた。
「あら、結構度胸が据わっていそうね。」
レイチェルが気に入った様子を見せた。
「そうねぇ。どうしよう、父さん。」
レイチェルがシャオに聞いた。
「わしはどこでもいいよ~ん。」
聞きようによっては大層な返事が返ってきた。
「そんな、気軽な…。」
ラテルが思わずつぶやいた。
「じゃあ私たち、身体を動かす方へ回るわ。」
レイチェルが言った。
「頭を働かせることって、得意じゃないのよね。よろしく、アヴィン。あなたの後ろは任せてちょうだい。少しは回復魔法も出来るから、大船に乗ったつもりでいいわよ。」
レイチェルは自信たっぷりにウインクして見せた。
アヴィンも満足そうに頷き返した。

「じゃあ、アヴィンにレイチェルにシャオさんと。マイルはどうする?」
グレイがマイルに尋ねた。
「レイチェルも回復魔法が使えるなら、僕は同じ場所にいるよりも市庁舎前に居た方が良いと思う。僕は全体回復魔法を扱えるから、役に立てると思うよ。」
「そりゃーすげえ。」
ドルクが言った。
「ぜひ頼むよ、マイル。」
ロッコも言った。
「う、うん。わかった。」
マイルはチラッとアヴィンを見てから答えた。
「これで5人か。こんなもんかな。」
グレイが言った。
「なあ、やっぱり戦いになるんだよな?」
スタンリーが聞いた。
「ああ、出入り口の見張りの兵士を拘束するのが目的だからな。執拗に抵抗されれば、怪我をさせて黙らせるぐらいの事はするつもりだ。」
グレイが答えた。
スタンリーはごくっとつばを飲み込んだ。
「そうか。だったら俺は争いにならない所の方がいいな。自慢じゃないが、腕の方はからっきしなんだ。」
「じゃあ、市庁舎前の方を手伝ってください。」
ロッコがスタンリーに言った。

「私と宿屋のご主人たちは、宿泊しているお客様を守ります。若い音楽家たちも手伝ってくれるわ。」
メリトス女史が言った。
「若い連中は、広場の方には回せないのか?」
ドルクが聞いた。
「彼らは未来のカヴァロの宝なの。出せる場所と出せない場所があるのよ。わかっていただきたいわ。その代わり、ホテル・ザ・メリトスの従業員たちを応援に向かわせます。」
メリトス女史はきっぱりと言った。


「街の出入り口を解放したら、さっそく周辺の村に応援を求めましょう。これは、馬車を持っている方にお願いしたい。」
ロッコが言った。
「私の方で手配いたします。」
秘書官が答えた。
「俺たちが、市庁舎のゼノン司令と交渉をします。おそらくこの段階で、一般の兵士たちの士気は相当低下しているはずです。ゼノン司令がその辺を見極めて、明け渡してくれれば良いのですが、それは実際に交渉してみないとなんとも言えません。最悪の場合は、ゼノン司令を…。」
ロッコが言葉を飲み込んだ。
部屋がしんと静まり返った。
「その時は私の出番だよ、ロッコ君。政治家の交渉術を見せてやろうじゃないか。」
デミール市長が言った。
ロッコがぱっと顔を上げた。
「適所適材だ。君たちでどうにもならない場合は引き受けるから、安心して進めなさい。」
「ありがとうございます、デミール市長。」
ロッコが頭を下げた。

「ヌメロス軍が撤退を受け入れた場合は、街の南の出入り口から追放します。ご存知のとおり、南には沼地があるだけで、陸伝いにエキュルの部隊に応援を求めたり、合流する事は出来ません。彼らが海上に引き上げるまで追跡をして万全を期したいと思います。」
「沼地に追い込めば、ひと安心だな。」
トムソンが言った。
「南の出入り口に見張りを立てて警戒しよう。」
猟師仲間の男が言った。
「街の周りの壁に、見張り塔を作るってのはどうだろう。」
がやがやと私語が飛び交い始めた。
「大体、出尽くしたようですね。」
秘書官がデミール市長とロッコを交互に見て言った。
「皆さん、大体お話はまとまりました。何かご質問はありませんか?」
秘書官が型通りに呼びかけると、スタンリーが手を挙げた。

「何でしょう、スタンリーさん。」
秘書官が尋ねた。
「出入り口と市庁舎を押さえても、まだヌメロス人のいる場所がある。」
スタンリーが言った。
部屋のざわめきが、また一瞬にして止まった。
スタンリーは皆が複雑な顔をしているのを見回した。
それからロッコたちを見て言った。
「あんたたちの前で言うのは気が引けるが、ヌメロス大使館も、こっちが掌握したほうがいいんじゃないか?」
誰も、答えなかった。
多くの人がその場所に気付いていたが、ロッコたちの手前、言い出せなかったのだ。
しかもロッコたちにヌメロス側の情報を提供しているのは、他ならぬそのヌメロス大使館なのである。
静まり返った中、ロッコが立ち上がった。
「もちろんだ。そのようにしてくれ。」
ロッコが言った。
「いいのか?」
スタンリーが聞いた。
「良いんだ。」
もう一度ロッコが答えた。
「我々パルマン隊だけがヌメロスから離反しているんだ。大使館はヌメロス帝国の機関なのだから、あなた方の監視下に置かれて当然だ。」
「いいのかね?」
デミール市長がロッコに確認した。
「はい。」
ロッコはもう一度答えた。
「よろしい。では、外交官にその旨を伝えておこう。」
「お願いします。」
ロッコは深く頭を下げた。仲間たちも神妙な面持ちだった。

「あとはよろしいでしょうか?」
再び秘書官が呼びかけた。今度はもう誰も手を挙げなかった。
「では、これでお開きと致します。当日までに打ち合わせが必要な事柄は、皆さん明日一日を有効に活用して準備を整えてください。本日はご足労様でございました。」


「レイチェル、君は回復魔法を使うのかい?」
解散したあとの酒場で、マイルが尋ねた。
「ふふふ、チアボイスって言うのよ。美女の歌声で回復させるの。」
レイチェルはお色気たっぷりに言い返した。
「そ、そうなの。」
マイルがちょっと顔を赤らめた。
「美人さん、俺に回復の美声を頼むぜ。」
後ろからドルクが茶々を入れた。
ドルクは昼間作ったあざに丁寧に包帯をしていた。
「ラテル坊やは大げさでいけねえよ。こんなもん、かえって目立つだけだぜ。」
口は悪かったが、口調も、仲間を語る眼差しも穏やかなものだった。
「あらあら、すごいわね。お姉さんにまかせなさ~い。」
レイチェルはドルクに向かって楽しげな一節を歌った。
「おう、だいぶ痛みが引いた。こりゃ頼もしいぜ。」
ドルクが大きく伸びをして嬉しそうに言った。
「じゃあみんな、明後日はパン屋の前に集合。先に東の入口を押さえて、続けて西の入口に突入だ。」
別働隊の顔ぶれが揃っていると見てグレイは言った。
「わかった、よろしくな。」
アヴィンが答えた。
「じゃ、お休み。」
グレイとドルクは酒場を出て行った。
「明日はゆっくり休んで、体調を整えろよ。」
アヴィンはドルクの後ろ姿に呼びかけた。

「そうだ、マイル、レイチェル。」
アヴィンは道具袋から魔法回復薬を取り出すとマイルとレイチェルに手渡した。
「これ、この間道具屋で買っておいたんだ。使ってくれよ。」
「ううん、私は自分のを持ってるわ。二人で分けて。」
レイチェルはもらった薬をアヴィンに返した。
アヴィンはそれをマイルに差し出した。
「マイルが持ってろよ。」
「え、全部かい?」
「たくさんの人を一度に回復するには魔法力がたくさん要るだろ?」
「そりゃそうだけど、アヴィンだっていくつか欲しいだろう?」
「俺は魔法がなくなれば剣があるから。街の人を巻き込むかもしれないんだ。マイルが持っているべきだと思うな。」
アヴィンはマイルの手を取って薬を握らせた。
「強引だなぁ。わかったよ、街の人は任せて。」
マイルは薬を受け取った。

「おいアヴィン。」
部屋に引き上げようとしたアヴィンをスタンリーが呼び止めた。
「何だ?」
「今日はあんまりしゃべらなかったじゃないか。どうしたんだ?」
「どうしたって、別に。」
アヴィンは答えに詰まった。
スタンリーはこのところ見せていた皮肉な調子ではなかった。
「この間俺が、街の人よりしゃしゃり出るなって言ったこと、気にしているのか?」
「あ、それは…」
アヴィンが言い淀むとスタンリーは勝手に解釈したようだ。
「あれは俺も言いすぎだった。本当は感謝してるんだ。俺たち、あんたたちがいたから勇気を無くさずにいれたんだもんな。」
「スタンリー…」
アヴィンはこみ上げてくるもので胸が一杯になった。
「決起の時に後悔したくないからさ。俺、冷たくしちまって悪かった。カヴァロのために、一緒に頑張ってくれよ。」
「ああ!頑張ろう。」
「じゃな。」
スタンリーは帰っていった。
アヴィンは万感の思いでマイルを振り返った。
瞳が、心から溢れてくる喜びに輝いていた。
「良かったね、アヴィン。」
マイルが笑っていた。
「ああ。」
アヴィンも顔をほころばせた。
歯を食いしばっていないと、嬉し涙がこぼれてしまいそうだった。

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