Fanfiction 二次創作|Junkkits

真実の島へ行きましょう

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「おはよう。」
アヴィンが身体を起こしたので、ミッシェルは声を掛けた。
アヴィンはぼうっとしていたが、声を掛けられたと知ってはっとしてあたりを見る。
テントの外では火に小鍋が掛けられていた。
火の側に座っている男…アヴィンに声を掛けてきたのは、マントを着た魔法使いだった。
「お、おはよう。」
一瞬、自分がどこにいるか失念していた。
ここはヴァルクドの神殿ではなく、セータの港に程近い街道沿いの野原だった。
身支度をし、テントを出る。昨日、神殿を発って二人で歩いてきたのだった。
「体調はどうですか?」
ミッシェルは小鍋に紅茶の葉を落とした。数回かき回し、火から下ろす。いい香りが漂ってくる。
「大丈夫。いい匂いだな。」
「ディナーケン様の所でご馳走になりましてね。気に入ってしまいました。」
アヴィンはミッシェルの隣に腰をおろし、パンを取り出して口に運ぶ。
ミッシェルは紅茶葉の開き具合を確かめて、カップに注ぎ分けた。
「今日はセータを通ります。この先寒いところに行くのですから、あなたの上着を買ったほうがいいと思うんですが。」
自分は見てのとおり防寒は万全だからと、ミッシェルは言った。
「俺はいいよ。それより、セータから先は街道もさびれている筈だ。今まで以上に魔獣に遇う可能性が高い。ミッシェルさんには悪いけれど、プレアラの護符を持っていたいな。お守り代わりに。」
「そうですね。用心に越した事はないですね。」
二人は、セータで買う必要のある品物についてあれこれと話し合った。
ヴァルクドで必要な物は買ってきたのだが、道具屋にある、あれば便利なアイテムなどは揃えなかった。
ミッシェルはそういう物に頼らずに旅をしてきたので、買おうと考えなかったし、アヴィンは急な事なうえ、初対面の年上の人間に遠慮もあって、麻痺を中和する活性剤だけにとどめたのだった。 今、旅の途中で役立ってくれたいろいろなアイテムを説明するアヴィンは、二日前に相づちだけで会話をすませた青年と、同一人物とは思えなかった。

「本当に上着はいいんですか?」
ミッシェルは、早足でセータの北の出口に歩いていくアヴィンに声を掛けた。
セータの町は、やはりアヴィンの機嫌を悪くさせてしまった。
ドークス方面の事情を知るため、あちらこちらで声を掛けたのだが、肝心のドークスの事についてはあまり情報がなかった。
それどころか、二人が旅人と知ると、あの、獣車が邪宗教徒に襲われた事件を持ち出して、警告をしてくれる者が続出した。
この町にとってはそれほど大きな事件だったのだ。
ミッシェルが巧みに話題をそらしたが、アヴィンの神経がどんどんささくれ立っていくのは、押さえようがなかった。
いくつかの商店に立ち寄り、必要なものを買い揃えたとみると、アヴィンはさっさと町の出口に向かったのである。
「あんたたち、そっちはドークスに向かう道だぜ。ヴァルクドに行くんなら南の街道だ。」
出口付近で露店を構えていた男が二人に声を掛けた。アヴィンは振り向きもせずに歩いていく。
「ご親切にどうも。道は間違えておりません。私たちはドークスへ行くんです。」
ミッシェルは立ち止まって男に話し掛けた。
「ほんとかい。気を付けなさいよ。往来が少ない分、魔獣が道のそばまで出てくるからね。あの坊主みたいに一人で何とかなると思っているのが危ないんだ。」
男は先に行ってしまったアヴィンの方をあごでしゃくった。
「貴方はドークスの辺りの事に詳しいのですか?」
「そりゃあな。俺は街道の途中に住んでいるんだ。薬草を育てたり、魔獣の牙から薬を作ったりしてここで売っているのさ。この道を行くんなら、まず用心に越した事はない。相棒のそばへ行ってやんな。魔獣ども、こっちが一人になると狙ってきやがる。さっさと通り抜けて、ドークスの村へ入るこった。もっとも今からじゃ夜中になっちまうかもしれないがね。」
「ありがとう。」
ミッシェルは会釈をして町を出た。
アヴィンは本当に先に行ってしまったらしい。ミッシェルは足を速めて街道を歩き始めた。

「アヴィンさん。待ちなさい。」
滅多に使わない命令口調でミッシェルがアヴィンを呼び止めたのは、セータを出てしばらく経ったところだった。
ドークスへ向かう道は、今まで通ってきた街道とは比べ物にならないほど細く、人の行き来もほとんどなかった。
アヴィンは足を止め、振り返った。口をへの字に曲げ、不機嫌を隠さない。
ミッシェルはアヴィンに追いついて向かい合った。
ミッシェルも機嫌がいいとは言えなかった。
「あなたの気持ちはわかります。でもね、連れを無視して先に行ってしまうというのは自分勝手ですよ。」
「……」
アヴィンは答えない。
二人は無言でにらみ合う形になった。
しばらくにらみ合いが続いたが、先に視線を落としたのはアヴィンだった。
ミッシェルはアヴィンから一言謝って欲しいと思ったが、引き結んだ口からは、何も言葉が出てこなかった。
「謝ってはくれないのですか?」
ミッシェルは最大限自分を抑えて言った。アヴィンがミッシェルを見た。
「すみません。」
硬い顔のままアヴィンは言った。
『本心じゃないでしょう!』
ミッシェルは口に出して言いたかった。
だが、それを言ったら、アヴィンに逃げ場がなくなってしまうだろう。
アヴィンが怒っているのはミッシェルに対してではなく、人々の気づかいさえ受け付けない自分の心だろうから。
「わかりました。」
ミッシェルはため息と共にうなづいた。

気を取り直し、荷物入れからセータの町で買った物を取り出す。
「あなたが欲しいといった分ですよ。プレアラの護符、気付け薬、ええとこれは?」
ミッシェルは液体の入った小ビンをつまみあげた。
「静寂の霧。魔法をさえぎるんだ。」
「物騒な物を買いますね。使う前には教えてくださいよ。」
そう言って、三つの品をアヴィンに渡す。アヴィンは皮肉っぽく笑った。
「ミッシェルさんにはとんでもない代物だな。よくよく考えて使うよ。ところで、俺の分しか買わなかった?」
「そうですよ。」
ミッシェルは真顔で言った。
アヴィンはこちらが納得したと思っているかもしれないが、無視された方はどんなに辛いことか。
「使い慣れないものに振り回されたくありませんからね。」
アイテムのことを言ったつもりだったが、慣れない旅の連れにも振り回されるのはごめんだと思っている自分がいた。
うまくやっていけそうにも思えるのに、ちょっとした事で反目してしまう。
ざっくばらんな話し振りも、素直だと思ったり、年長者の敬い方も知らないのかと感じたりする。
『私まで感情的になってはいけないのに。』
人を見守るという事が、いかに自分を見つめる事にもなるか。
ミッシェルは自分にもまだたくさん覚えるべき事があると自覚した。

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