Fanfiction 二次創作|Junkkits

真実の島へ行きましょう

-9-

「おや、いつの間に。」
神殿の外へ出た二人は、あたりがすっかり暗くなっているのを見て顔を見合わせた。
一寸先は、闇である。無人の島にはたった一つの明かりさえもない。
「これでは海に出られませんね。」
「しかたないな。」
アヴィンもしぶしぶ言う。
「もう一度、神殿へ降りましょう。」
「どうして?」
「試してみたい事があるんです。それに、結界の中のほうが安全ですよ。」
そう言うと、ミッシェルはどんどん先に下りていく。
「ミッシェルさんは魔法力をたくさん使ったもんな。」
「いえいえ。もう一働きくらい大丈夫ですよ。」
「試したい事って?」
「ええ。地下の祭壇のところで、私が知っているのと同じ感覚があったものですから。」
聖水をたたえた泉の前で、ミッシェルは立ち止まった。
「やはりそうだ。ここでは、一定の条件が揃えば、託宣を行う事ができますよ。」
「たくせん?」
オウム返しに言ったアヴィンが理解していない様子なのを見て、ミッシェルは言葉を変えた。
「その人がこれから出合う事柄や、行動のヒントのようなものだと思ってください。」
「つまり、未来の出来事がわかるのか?」
「そうなる場合も、ならない場合もありますけどね。本来は何かきっかけになる物があって発動するのですが、たぶん、私の魔法でも大丈夫でしょう。」
ミッシェルはそう言ってじっとアヴィンを見た。
「もしかして、俺に託宣を受けろと?」
アヴィンはびっくりして声をあげた。ミッシェルはうなづいた。
「こんな機会は滅多にありませんよ。託宣を受けたからといって、それに縛られる事はありません。活かせなければそれまでの事ですし。…いやですか?」
ミッシェルは澄ました顔で聞いたが、内心では頷いて欲しいと願っていた。
何か託宣が得られれば、アヴィンはそれにとらわれるだろう。そうすればこれから先、心の傷が癒えるまでの慰めになるに違いない。
「俺は、ヴァルクドに戻った後どうするか、自分でも決められないんだ。何かヒントが得られるなら、託宣を受けてみたい。」
しばらく考えたあとでアヴィンは言った。ミッシェルは安堵した。
「わかりました。では、あちら側からこの水面をご覧なさい。」

アヴィンが泉をはさんで正面に立った。少し緊張しているようだ。
「いいですか?」
「ああ。」
ミッシェルは自分の杖に魔法を掛けた。
杖は、本来この儀式に必要なものの役割を担い、託宣を引き出すかなめとなる。あとは、じっと待つだけであった。
泉の周りの四本の柱に、光が灯った。
かすかな耳鳴りのようなものがだんだん大きくなり、それにつれて光も強さを増した。
「うっ。」
ミッシェルの持つ杖に、強い衝撃が加わった。
四本の柱からやってきた大きな力が杖に集まり、それは混ざり合いさらに強いものとなって、正面に立つアヴィンに向けて放たれた。
『大丈夫かな…。』
ミッシェルは少し心配になった。これほど強い力にさらされるとは思っていなかったのだ。
よりしろとなっているミッシェルよりも、力を受け止めているアヴィンのほうが先に消耗してしまいそうだった。
そのアヴィンは、泉の中央を凝視している。
ミッシェルには何も見えないが、視線を動かし、時折り何かをつぶやいている様子から、託宣の映像を見ているのだと推測できた。
『ずいぶん、長い。』
ミッシェルの額にも汗が浮かび始めた。杖に集まる力はまだ衰えない。一体どんな託宣を受けているのだろう。
平凡に生きる人間なら、当たり前ののどかな暮らしを見るだけのこともあるという。
しかし、どうやらこの青年は平凡には生きられないようだ。
ふっと、集まっていた力が弱まった。柱に灯った明かりも消えた。アヴィンを見ると、立ってはいるものの、大きく肩で息をしている。
「大丈夫ですか?アヴィンさん。」
アヴィンは目を上げてうなづいた。こちらへ歩いてこようとするが、足元が怪しげであった。ミッシェルは急いで側へ寄った。
「こちらへ。大分消耗しているようだ。」
祭壇の下の階段へ座らせる。
そばで見ると、アヴィンは汗でびっしょりになっていた。ミッシェルは手早く回復の呪文をかけた。

息が落ち着くとアヴィンは物言いたげな顔になった。が、何から言ったら良いのかわからないという様子である。
「どうでしたか? かなりの情報量だったようですが。」
確か、託宣の内容はあまり人に話すものではないと言われた気がしたが、ミッシェルは自分の関心の方を取った。
アヴィンは頭の中の光景を思い出すように語った。
「いくつも光景を見た。神殿のようなところで瞑想をする人、俺が育った山小屋…それと、大きな海か湖。それに、さびしそうな墓地だ。」
「場所にすると四ヶ所ですか。」
「ああ。これから、あの光景が俺にかかわってくるのか。」
「直接か間接か、わかりませんがね。気をつけていればわかるでしょう。」
アヴィンは自分を納得させるようにうなづいた。
「それにしても、疲れた。映像を見ている間は気が付かなかったけれど…。」
「かなりの力が働いていましたからね。」
もう休ませた方が良いだろうと、横になれそうな場所を探すが、見渡す限りどこも石の床であった。
今さら地上に出るのも気が進まなかったので、ミッシェルは一番奥の壁画の前で過ごす事に決めた。
荷物を枕に、毛布一枚を身体に巻いての、まったくの野宿である。
だいぶ魔法の力を使ったので、休めるだけでも有難かった。
アヴィンも似たような状態だ。壁にもたれて座り込み、ずっと考え事をしている。

「あの、ミッシェルさん。」
しばらくしてアヴィンが声を掛けてきた。彼にしては珍しく、おずおずといった風である。
「なんです?」
何を言い出すのか興味もあって、ミッシェルは先を促した。託宣の内容を、もっと詳しく聞きたい気持ちもあった。
「もしよかったら、俺と一緒にじいさんの小屋へ行きませんか? 俺にはよくわからないが、じいさんの本とか、…そのままにしてあるんです。ミッシェルさんなら役に立ててくれるかもしれない。」
ミッシェルは突然の申し出にとっさに返事が返せなかった。まさかアヴィンがそういう事を言ってくれるとは。
「ありがとう。」
何も考えずに気持ちだけで答えてしまって、アヴィンがぱっと顔を輝かせたのに、ばつの悪い思いを味わう。
慌ててミッシェルは首を横に振る。
「でも、私にはほかにやらなくてはいけない事があるんです。残念ですが、ご一緒することはできません。」
「なんだ、そうなのか…。」
がっかりしたアヴィンに悪くて、ミッシェルは言葉を付け足す。
「ごめんなさい。そう言っていただけたことは、とても嬉しいのですが。」
アヴィンが苦々しく笑う。
「いいよ、無理に言ってくれなくても。じいさんが残してくれたものを見つけたら、何か新しい目標が見つかるかもしれない。がんばってみるよ。」
「託宣で見た光景の一つでしたね。」
ミッシェルは本当は行きたかった。この世界の大きな謎を見極めてみたかった。だが、そのために選ばれたのは、アヴィンのほうだ。
ミッシェルにはそれを横取りする事は出来なかった。それに…。
「アヴィンさん。私は、こちらの世界の事を紐解き、見極めるのは、やはりこちらの世界の人がするべき事だと思います。」
ミッシェルが言った。
「神々の戦いの事か?…俺は、どちらも信じない。どちらが勝者になっても、なじめない。いっそ、なくなってしまっても構わない。」
「たとえそうだとしても、それを見届けるのはこの世界の人の仕事ですよ。」
ミッシェルが言うと、アヴィンは不満そうに言った。
「でもミッシェルさん、もしも、ミッシェルさんしかその世界の異常に気が付いていなかったら、どうするんだ? 誰かが気付くまで、何もしないのか?」
「え。」
ミッシェルは言葉に詰まった。
「そっちの世界の人が解決するべきだって、放っておけるのか? そんなことないだろう?」
「いや、それは…。」
ミッシェルは身体を起こした。横になって聞いていてはいけない事だと感じたのだ。
アヴィンの隣に座りなおして、ミッシェルは言った。
「もし、この世界の異常を私だけが見つけたなら、私は自分で動きますよ。他の人が気付くまで、待つなんてしません。」
「だったら、今だって、ほかの世界の人間だから手伝わないんじゃないはずだ。これが、俺に与えられた事だからなんだ。だからミッシェルさんは手出しをしないんだろう? きっと、世界が違うなんていうのは関係ないよ。」
「アヴィンさん…。そうですね、あなたの言う通りかもしれない。私は、ほかの世界から来た事にこだわりすぎていましたね。」
「バルドゥスとオクトゥムの争いは、俺なんかじゃ手に負えないことかもしれない。だけど、生きている限り、逃れられない事なんだ。変わるためには、いいや、変えるためには、こっちから飛び込んでいかなきゃならないんだ。」
ミッシェルはアヴィンの熱弁を聞いていて嬉しくなった。
ヴァルクドで生気のない顔をしていたなんて、今のアヴィンからは想像も付かない。
『ガウェイン殿との約束は果たせたようですね。』
これでヴァルクドへ戻っても、堂々とガウェインに会う事ができる。
だがそれは、この短い旅が終わることでもあった。名残惜しい気持ちに、ミッシェルも気付いていた。

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